世界に誇れる日本の伝統文化を発信するプロジェクト「にほんもの」では、これまでにいくつもの「お茶」の産地を巡ってきた。その旅で出会ったお茶や茶器、お茶道具などの逸品を取り扱っているのが「にほんものストア」だ。この記事では、にほんもので取り上げた珍しいお茶について紹介するほか、にほんものストアで人気のお茶関連の商品をランキング形式で紹介する。ギフト選びや、自分のためのお茶時間のヒントに役立ててほしい。
にほんものが訪ねた全国のお茶
多くの日本人が日常的に飲んでいる「お茶」。日本人に広く親しまれている「緑茶」や、紅茶やウーロン茶など味わいも様々。お茶と一口に言っても沢山の種類や味わいがあり、世界各国で独自の進化をとげている。2021年には日本茶の輸出額が過去最高となるなど「日本のお茶」は今、海外からも注目を集めている。
これまで「にほんもの」では、日本のお茶づくりに関わる人々に注目し、いくつもの産地を巡ってきた。そして、茶葉を育てるお茶農家や、茶葉を加工して販売する茶商など、さまざまな人たちから話を聞いた。
これまでに紹介した「お茶」に関する記事は次の通り。飲んでみたいお茶を探すヒントにしてみてほしい。
希少性やご当地性が魅力。誰かに教えたくなるレアなお茶
一口に日本茶といっても、さまざまな製法や加工方法がある。中には、その地域でしか知られていない珍しいものも。
ここでは、思わず誰かに言いたくなったり、お茶への興味が深まったりしそうなお茶を紹介したい。
その手間ゆえ、生産量が限られる貴重な手もみ茶
「手もみ茶」とは文字通り手でもみながら乾燥させて作る。その手間ゆえ、最高級のものは1kgあたり100万円を超えることも。機械による余分な力が加わらないので、茶葉の原型をとどめたまま完成し、お湯に浮かべると摘み取ったままの茶葉の姿に戻るのが特徴。もともとは中国から伝えられた技法で、これをヒントに1738年京都の宇治田原町の茶農家で日本の緑茶製法の父といわれる永谷宗圓が発案した。従来のお茶に比べて味、香り、色ともに優れた品質で、全国に広まり様々な流派が生まれた。その後、茶師が一人で5〜6時間休まず行う手揉み工程の機械化が進むと、手もみ茶は衰退。しかし現在もその技術継承が続き、高品質な手もみ茶で有名なのが、狭山茶の産地として知られる埼玉県入間市だ。
同市には全国手もみ茶振興会の会長も務め、茶師の最高栄誉とされる農林水産大臣賞を7度も受賞している茶工房比留間園代表・比留間嘉章さんなど“手もみ茶のレジェンド”が存在する。
手もみ茶は、2〜3本の手もみ茶にほんの数滴の湯をかけて、その“しずく”を味わいながらいただく。これを口に含むと、数滴とは思えないほどの味わいと香りが口いっぱいに広がる。実際に味わった人にしかわからない、上質な出汁に勝るとも劣らない強いうまみをぜひ試してほしい。
にほんもので紹介した、手もみ茶の生産者はほかにも
玉露よりも強い甘みの白葉茶。茶器もあわせて開発
静岡県袋井市の安間製茶では「白葉茶(はくようちゃ)」の生産に力を入れている。
旨味成分であるテアニンがカテキンに変化することを最小限に抑えるために、お茶の木に特定のタイミングで99.99%以上の遮光をしながら栽培して作る白葉茶は、濃厚な甘みと旨味が特徴だ。日光を遮ることで、甘みのもとになるアミノ酸の含有量が一般的な煎茶の約3倍、玉露の約2倍にまで上がるうえ、苦味成分であるカテキンは大幅に減少する。栽培・製造が難しく作り手も少ないが、三代目となる安間孝介さんは、この白葉茶の研究発表で農林水産大臣賞を受賞している。
安間さんは、お茶を美味しくいただくための急須や器づくりにも力を注ぐ。これらの茶器の素材には、地元の瓦工事店が新しい取り組みとして開発した瓦の素材をつかった特殊な土を採用し共同開発。素材に含んだ炭素には旨味や甘みのもとであるアミノ酸を阻害するカフェインやカテキンを吸着する性質があるため、「白葉茶」の旨味や甘みをさらに引き立てられるというわけだ。希少なお茶を、専用の茶器でより美味しく味わいたい。
九州では一般的な蒸し製玉緑茶。通称「グリ茶」
日本茶というと、「煎茶」の細い針状の茶葉を思い浮かべる人が多いかもしれないが、主に鹿児島を除く九州地方では、茶葉が湾曲した「蒸し製玉緑茶(むしせいたまりょくちゃ)」をよく見かける。このお茶は、生葉を高温で蒸して発酵を止めた後、揉んで乾燥させる工程で、形状がクルリと丸くなる。その見た目から通称「グリ茶」とも。渋みの抑えられたまろやかな味わいが特徴だ。
中国から伝わったとされる「釜炒り茶」のように茶葉がくるんと巻いて玉のようなので「蒸し製玉緑茶」と名付けられた。
もともと鹿児島など九州地方の産地では「釜炒り茶」が広く生産されており、製法の似ている「蒸し製玉緑茶」は輸出用の生産として広がり、静岡に次ぐ産地となった。
長崎県島原半島の中心にそびえる雲仙岳の麓、標高約50mから200mの中山間地で作られる「雲仙茶」も蒸し製玉緑茶だ。この産地の一角雲仙市瑞穂町の茶農家で、長田製茶の3代目となる長田篤史さんは、蒸し時間が通常よりも長い「深蒸し玉緑製法」で仕上げる技を編み出し、さらに仕上げで釜炒りすることで香りを引き立て、色味が美しいまろやかな緑茶を作り上げた。飲み比べてみるのも面白そうだ。
ギフトにおすすめ – にほんものストアの人気のお茶販売ランキング
にほんものが運営する「にほんものストア」では、これまで取材した生産者の手がけた品質の良いお茶を購入できる。ここで人気商品をランキング形式で紹介したい。
1位 水出し 加賀棒ほうじ茶 にほんものエディション
江戸時代よりお茶の名産地として発展してきた石川県。その石川のブランド茶として有名なのが、新茶の茎を焙じて作る「加賀棒茶」だ。始まりは明治時代、金沢の茶商が茎を焙じて製茶したところ、香ばしい風味と手ごろな価格から人気を博したという。
その「加賀棒茶」を浅めに焙じて仕上げたのが、石川県宝達志水町(ほうだつしみずちょう)の老舗「お茶の油谷(あぶらたに)」自慢の焙じ茶「加賀棒ほうじ茶」だ。
その加賀棒ほうじ茶を水出しできるのが、この商品。食事を楽しむ際、季節を問わず冷たい飲み物を好む人の選択肢となるように「お茶の油谷」と「にほんものストア」プロデューサーの中田英寿が共同で開発。
原料は契約農家からのみ仕入れ、柔らかい茎のみを厳選。焙煎では遠赤外線によって浅煎りに仕上げ、煎茶の風味をほどよく残しながら「甘み」を最大限に引き出した。温度1度の違いが味わいに影響するので、季節による微調整もぬかりなく。すべての工程で、代表の油谷祐仙さん自ら厳しい確認を行っている。老舗が手がけた、原料と製法にこだわった「加賀棒ほうじ茶」は、どんなジャンルの食事に合わせても邪魔にならず、これまでの棒茶の庶民的なイメージを覆すはずだ。
2位 さやま 純手もみ茶
「日本三大銘茶」のひとつ、狭山茶。狭山茶の産地である埼玉県入間市の「大西園製茶工場」は、約250年の歴史を持つ緑茶農園だ。
同園の多彩なラインナップの中でも、特に注目すべきは手もみ茶だ。特別に仕立てた専用茶園の新芽を手摘みし、約6時間をかけてもみ上げる手もみ茶は、最高級品だと1キロあたり158万円もの価格が付く貴重なもの。全国手もみ茶品評会で頂点を5度以上獲得した者に贈られる“永世茶聖”の称号を日本でたった一人認められた、14代目園主の中島毅さんの技術があってこそできるものだ。
手もみ茶は、新芽を一芯二葉で手摘みし、蒸した茶葉を焙炉(ほいろ)と呼ばれる台の上でもみ続けて作る。「葉ぶるい」「軽回転揉み」「重回転揉み」、清掃を挟んで「揉みきり」「転繰り揉み」「こくり」「乾燥」といった熟練の技術を要するいくつもの工程を経て完成させていく。これだけの手間をかけ、1回の作業で出来上がるお茶は、わずか約300g。手もみ茶がとても貴重なのは、こうした理由からだ。
出来上がりは針のように細く、剣先があり長い形状。手もみ茶をおいしくいただくには、約50度の低温のお湯を30mlほどの少量で3分程度浸して飲むのがおすすめ。薄い黄緑色のお茶は、穏やかな旨み、甘みが感じられ、口に広がる余韻を楽しめる。茶殻を見ると、摘んだ葉の形に戻っているはず。手で揉むと余分な力がかかりにくいため、葉の原形がとどめられているのだが、機械製では出すことのできない形、香り、滋味を楽しんでほしい。
3位 玉露プレミアム
創業1948年の鹿児島市の茶商「池田製茶」代表、池田研太さんが、国内外で認知度の高い玉露を鹿児島県でも生産したいという想いのもと作り上げたお茶。約5年の歳月をかけ、品種の選定や気象条件、栽培条件などを見直し、鹿児島の地の利を生かした品質の良い玉露を生産できるためのノウハウを確立した。
新芽が開き始めた頃に覆いを被せ、遮光して栽培する玉露は、このひと手間によって旨み成分といわれるテアニンが苦みのもととなるカテキンに変化することを抑え、凝縮された甘みと旨みが楽しめる。池田製茶の「玉露プレミアム」は、鹿児島産の玉露をさらに1年間寝かせる熟成期間を設けることで、より一層風味を引き立たせた、濃厚な味わいを引き出した。
この商品を手がけた茶師・池田さんは、製茶業界屈指の難関である茶審査鑑定技術の最高位「茶審査技術十段」を取得。日本でも指折りの技術者である池田さんが手がけた玉露プレミアムは、鹿児島県産の茶特有の力強い旨みと、玉露らしいまろやかな甘みはもちろん、上品で華やかな香りも特長だ。気分を上げたいときや、特別な日のティータイムに試してほしい。
4位 有機烏龍茶【たかちほ春】
「釜炒り茶」という製法を聞いたことがあるだろうか。大半の日本茶は、高温で蒸すことで発酵を止めて作る「蒸し製緑茶」だが、蒸す代わりに釜で炒ることで発酵を止めるお茶が「釜炒り茶」と呼ばれている。
この釜炒り茶は中国から伝わった製法だが、日本有数の産地として知られているのが、宮崎県五ヶ瀬町だ。釜炒り茶は製造工程のほとんどが手作業であり、手間ひまがかかることから全国的にも生産量が少ない。が、しかし同町の茶園「宮崎茶房」では、その希少な釜炒り茶を、農薬や化学肥料を使わず、有機肥料のみで育てた茶葉で仕立てている。そのほか、紅茶や烏龍茶、番茶にブレンド茶など、幅広い世代に親しみやすいお茶も好評だ。
この有機烏龍茶には、釜炒り茶用に生まれた宮崎県の品種「たかちほ」の春摘み茶葉を使用。清涼感あふれる風味を持ち、ハーブティーを口にした時のような爽やかな飲み心地が特徴。中華菓子に合うのはもちろん、煎餅や大学芋など、和菓子との相性も抜群。爽やかな飲み口が、口の中の甘さをすっきりさせてくれる。1日の始まりや作業の合間など、シャキッとしたい場面にぴったりだ。
5位 菩提酸茶
後発酵茶(こうはっこうちゃ)というお茶をご存知だろうか? 摘んだ茶葉を加熱して酸化を止め、よく揉むなどした後に微生物の力で発酵させて作るお茶のことだ。中国茶ならプーアル茶が有名だが、日本のお茶として全国的に有名なのは4種類(徳島県の「阿波晩茶」、高知県の「碁石茶」、愛媛県の「石鎚黒茶」、富山県の「バタバタ茶」)とそう多くはない。
そんな後発酵茶作りに挑戦している人が、日本一のお茶処・静岡県にもいる。静岡県袋井市にある「安間製茶」代表の安間孝介さんだ。
安間さんが地元の「晩茶研究会」での共同研究・開発によって作ったのが「菩提酸茶(ぼだいさんちゃ)」で、他に類を見ない柑橘系の香りと搾りたての果汁を思わせるさわやかな酸味が特徴だ。静岡県袋井市豊沢(菩提地区)の茶畑で、寒さが最も厳しい2月に摘採した茶葉である「寒茶」を、約4ヶ月間かけて乳酸発酵させて作る。このお茶は、お茶を飲いるとは思えない独特の風味でありながら、飲みやすい味わい。「飲む人に驚きと感動を与えられる茶づくり」を目指す安間さんが手がけた、これまでにない新しいタイプの茶との出会いを楽しんでみてほしい。
瓦急須「粋月」白葉茶セット
甘みと旨みの強い“いいお茶”は、お湯の温度や量、浸出時間などにも神経をつかうもの。自分で美味しく淹れる自信がない人もいるのではないだろうか。そういう人には、ぜひ道具の力を借りることをおすすめしたい。
前述の静岡県袋井市の「安間製茶」が瓦の会社との共同研究によって開発した特殊な瓦製の急須「粋月(すいげつ)」は、お茶の甘みと旨みを引き出すことに特化した急須だ。
急須の瓦には炭素が染み込ませてある。炭素は茶の苦味のもとであるカテキンやカフェインを吸着する効果が高いため、お茶の苦味成分を極限まで吸着させることで旨みや甘みを引き出す機能性を実現した。
また機能性だけでなく、富士山をイメージした形状やスライド式の蓋が鳴らす音、瓦らしい表面が残る手触りなど、五感を刺激するデザイン性も追求。急須は、丁寧に使えば何十年でも使い続けられる「一生もの」の道具。心潤う時間を過ごせそうな一品を選んでみてはどうだろう。
茶のおいしさを究極まで突き詰めた急須と同梱される白葉茶のセットを使った究極の茶の味わいを、ぜひ体験してほしい。
お茶用宝瓶
一日に何度もお茶を楽しむお茶好きにとって、手入れのしやすい急須ほど、うれしいものはない。
岐阜県土岐市に拠点を置く新進気鋭の陶芸家で、自身もお茶の愛飲家である村上雄一さんが手がける「宝瓶」は、そんなお茶好きの思いを見事に叶えてくれている。ちなみに、宝瓶とは持ち手のない急須のような形状をした茶器のことで、「ほうひん」あるいは「ほうびん」と読む。
縁にゆとりを持たせることで熱湯を使用しても熱くなりにくい仕様に。煎茶はもちろん、熱湯を用いる茶葉の大きい中国茶にも使える。煎茶は茶葉が細かいので、蓋をピッタリと閉めて絞り出すように。中国茶を入れる場合は蓋を後方に少しずらして隙間を作り、サッと注ぐのがコツだ。いろいろな種類のお茶を楽しみたいけれど、それぞれに合った専用の茶器を用意するのが大変という人にはうれしいアイテム。普段からお茶を嗜む本格派から、これから楽しんでみたい人まで肩肘張らずに使えるうえ、洗練されたデザインが使うたびに気分を上げてくれそうだ。
白妙磁湯呑
内側と外側の色と質感のコントラストが目を惹く、白磁の湯呑。外側には絹織物のような不思議な光沢を持つ独自の白磁釉薬を使用し、内側には青白い光沢を持つ青白釉薬を施している。低めの温度で丁寧に淹れた玉露や煎茶のグリーンが、より一層映え、おいしくいただけそうだ。
佐賀県有田町で明治17年から有田焼を作り続けている晩香窯。6代目である庄村久喜さんは2022年に行われた日本陶芸美術協会が主催する『陶美展』で「日本陶芸美術協会賞 (大賞)」を受賞。人間国宝らの作品と並んで審査される公募展ということもあり、その活躍がやきもの界でもさらに注目を浴びている。庄村さんが生み出したオリジナルの白磁「白妙磁(しろたえじ)」の器は、「現代の生活に溶け込むような器を」との想いで作られているだけに、まろやかな三角形寄りのフォルムがモダンな印象。そして、手の形に優しくなじむ。赤ちゃんの肌のようにしっとりと滑らかな手触りは、毎日使いたい気持ちにさせられそうだ。
黒釉しのぎ湯呑
両手で包み込みたくなるような厚みのあるフォルムと、あたたかみのある黒。
国内屈指の焼き物の産地である滋賀・信楽町を拠点に、海外でも活躍する陶芸家・古谷 宣幸さんが作ったこの湯呑みは、手に馴染みやすい形状に轆轤(ろくろ)成型され、黒釉という鉄分で黒く発色する釉薬が使われている。黒釉は焼成時の条件によって仕上がりが左右される繊細な釉薬だが、古谷さんは納得のいく質感を求めて朝鮮王朝時代の徳利「黒高麗」や東南アジアなどの古い焼き物を研究して独自の黒釉を開発。刀身の側面にある山高くなっている筋「鎬(しのぎ)」の装飾が織り成す上品な黒の濃淡も深い味わいがある。日々の暮らしの中、ホッと一息つく安らぎの時間のお供にぴったり。熱いほうじ茶が合いそうだ。
如何でしたでしょうか。「飲んでみたい」「贈ってみたい」「産地を訪ねてみたい」そんなお茶に出会えましたでしょうか。知れば知るほど奥深いお茶の世界。自分のお気に入りのお茶が見つかれば、器にもこだわってみるとさらに世界が広がるかもしれませんね。
にほんものでは、日本人が大切に育んできたお茶文化を後世に伝えられるよう、お茶の生産者、その歴史などをこれからも発信していきます。