澄み切った迫力ある音色「尺八奏者 山本邦山」/東京都練馬区

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手にとって遊ぶことからはじまった

今年で75歳になる山本邦山(ほうざん)さん。尺八の演奏家、作曲家であり2002年に重要無形文化財保持者に認定された邦楽界の巨匠だ。小さいときから、父である初代山本邦山の尺八に触れていたという。本格的に稽古を始めたのは9歳のころ。以降、尺八の魅力にとりつかれて、現在も現役として活躍している。

尺八の基本は、面白さだと語る。「父から教わったということになっていますが、実際は尺八に触れて遊んでいたようなものでした」。お琴の演奏家であった祖母と母から邦楽の基礎を学んだが、山本さんの尺八歴はいわゆる王道だけを歩いてきたとは言い難い。
「いろんな演奏家に一緒に演奏させてくれと言ってまわった」。上京したてのころはアルバイト生活。ホテルのロビーで生演奏をし、ときにはジャズやクラシックの演奏家とセッションをすることがあったという。尺八はほとんど独学で学んだようなものと語るように、多くのセッションの中で独自の音楽を切り開いていったのだ。

演奏する空間全体を楽器にする

「昔からジャズは好きだった。ストレス解消になるんですよ。」とその頃のことを振り返りながら山本さんは話す。
「ジャズと出会えたことはすごくよかった。アドリブも経験できたことによって、邦楽ばかりやっていると作ることのできない曲も書けるようになった」
「尺八のジャズなんて聴いたことがないです」と中田。
「ぜひ聴いてくださいよ。ジャズでびっくりしたことのひとつに、マイクを使うこと。邦楽では僕ら尺八は使わないでしょ。だからホール全体を鳴らさないとダメなんですよ。この部屋で吹くなら、この部屋自体が楽器にならないとダメ」
そういって、飴色の尺八を手にとり、曲の一節を吹いてくれた。澄みきった柔らかい音色が部屋に響く。音は尺八から出ているのだけれども、その音は一度空間と溶け合って、空間にあるものとして耳に飛び込んでくる。会場全体を楽器にしてしまうほど迫力ある音色が尺八の魅力なのだ。

鳴らないまま帰ると思ってた…

トランペットやクラリネットは、いきなり吹けたらすごいとよく言うが、尺八もまた同じ。「いきなり鳴ったらたいしたもん」と山本さんも言う。そこで中田も挑戦…するけれども、鳴らない。山本さんの言うとおりそれほど甘いものではないのだ。しかし、負けず嫌いな中田。山本さんに指導を受けながら、尺八に口をあてる。「角度はこう」「息の入れ方はこう」と、山本さんも付き合って指導をしてくれる。
すると突然、中田の尺八から音が出た。中田も驚きとうれしさで顔を上げたが、もっと驚いていたのは山本さん。
「正直言うとね、絶対鳴らないと思ってた。なかなか難しいですね、と言って帰るものだと。いや、これはすごい」
巨匠にほめられて、さきほどまでのうれしそうな顔が今度は楽しそうな顔になる。これが最初に山本さんが言っていた「面白さ」なのかもしれない。初めてのものに手を触れる。初めて音が出る。そうやって、ひとつひとつをクリアしていくごとに楽しさがあふれ、次へと進もうという気持ちが出る。「好きだということが基本の基本。それから楽器への愛情。それはスポーツだって同じでしょ」。そう言って山本さんは笑っていた。

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尺八奏者 山本邦山
東京都練馬区
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