名を継ぐ
「伊藤赤水」は初代から数えて100年以上の歴史を持つ陶芸家の名前。佐渡金山の坑道から採れたといわれる「無名異(むみょうい)」という土を使った無名異焼で知られる。
無名異は金の鉱脈の近くにあるので、鉄の含有量が高い土だ。高温で焼き上げるため、非常に硬く、叩くと金属のような音がすることが特徴だ。
今回お話を伺ったのは第五代目 伊藤赤水さん。無名異の赤い土色を活かす高温の焼きしめと、炎のあて方により黒色を入れる窯変という技で、無名異焼の美しさを高めた人物として、2003年には重要無形文化財保持の認定を受けている。
地方から発信する
まず、中田が新潟、佐渡島という地域で制作する理由ついて伺うと、じっくり、ゆっくりとこう話してくれた。
「明治以降、すべてのものが東京に集まったんですね。美的価値観が決定されるのもやっぱり東京。でも地方でものづくりに励んでる人もたくさんいるんですよ。でもその人たちも、受け入れてもらうのは東京。いやおうなくステージは東京にあるんです。じゃあそのステージにあがったときに地方の人間がどう競い合っていけるか。情報では負けるんです。だから田舎の歴史、風土、原材料なんです。」
この答えに中田も思い当たることがあった。
「僕もそう思います。だから僕も旅をしているんだと思います。実際にその地方でものを見たり、実際に人に会いに行ってるんです。それは農作物もお酒も同じです」
全国的に価値のある物が都市に集中する。しかし、その作り手や素材本来の価値はその産地にしかと息づいている。
受継ぎ、新たに加えること
5代目の作品だけでなく、歴代の伊藤赤水の作品も拝見した。
一言で「無名異焼の作品」といっても、初代からさまざまな違いがある。
そのことを中田が指摘すると「僕らの仕事っていうのは、先人が残してくれたもの、エッセンスをいただいて、そこに自分のものを加えていかないといけないと思うんですね。ただ踏襲するだけだとやはり閉塞感が出てきてしまう」と伊藤赤水さんは話してくれた。
時代とともにある。時代の半歩先を行く
また、陶芸は「使うという要素を否定してないところも、ほかの美術品とは違う」とも話す。
中田はそれに「実は、僕は使いたい人間なんです。美術品のようなものを見ても、これだったら、こう使って、こう置いたら場が華やかになるとか考えるんです」と応えた。
「今回の旅は、美術品の作家さんから伝統工芸士さん、そして農業を営んでいる人のところからレストランまで、全部一緒にいろいろなところを回っているんです。それで見えてくるものもありますね」
そう中田が話すと、伊藤赤水さんは「ぼくが作るようなものは、時代とともにいなくちゃいけない。また、一方では時代の半歩先をいかないといけない。そういう作業だと思うんです」とおっしゃっていた。
日本人が古来より生活に取り入れ、手にする喜びを感じ続ける陶芸品。これからも時代の変化のなかで発見と創造が繰り返される。伊藤さんとの対話の中にその一端を垣間みることができた。