江戸時代から約400年続く、伝統ある南部鉄器の工房。
その特長の1つは、無駄のない美しいフォルムと深い錆色。
その高いデザイン性と色合いが現代の生活にもなじみ、
気品のある印象を与えています。
400年の伝統を受け継ぐ女性職人
岩手県盛岡市にある鈴木盛久工房は、江戸時代から南部鉄器を支えてきた約400年の歴史を持つ工房だ。創業は1625年で現在でも昔ながらの技法を受け継ぎ南部鉄器を作り続けている。鈴木家は代々鋳物師として南部藩に仕え、現在で15代を数える家だ。
今回お伺いしたのは、15代鈴木盛久の名を継いだ熊谷志衣子さん。歴代のなかで初の女性職人ということで注目を集めている。志衣子さんは鋳物師になる以前には彫金を学んでいた。しかし、先代のお父様が亡くなったことを受けて、この道を継ぐ決心をしたのだとお話を伺う。彫金を専攻していた経験が現在の繊細で、たおやかな模様の作品につながっている。その中でも特に人気なのは鉄瓶だ。この日は仕上がったばかりの鉄瓶をひとつひとつ拝見した。
インテリアとしても飾れるおしゃれな南部鉄器
伝統の「日の丸形」という鉄瓶は明治時代のデザインだ。一般的な南部鉄器は、現代のやかんや急須と比べるとがっちりと重厚な印象がある。しかし、熊谷志衣子さんの作品は南部鉄器ならではの重厚感を残しつつも、女性らしいオリジナリティーを感じさせる。珍しい縦ストライプや手鞠模様といったデザインは驚くほど軽やかだ。このように伝統工芸品ではあるが、現代の生活を彩るインテリアとしても志衣子さんの南部鉄器は愛されている。
次にギャラリーと繋がっている工房に案内していただいた。明治18年の建設以来そのままという町家造りの建物、そのほの暗い通路を通り抜けると工房があった。現在、鈴木盛久工房では、志衣子さんや16代目を継ぐ息子の成朗さん、そして若いお弟子さん方が活躍している。
鉄瓶のデザインを考え、鋳型をつくり、鉄を流し込む、その南部鉄器づくりの全てがこの工房で行われている。代々受け継がれる技術があるからこそ、鉄瓶を繊細にも重厚にも作り上げることができるのだ。
伝統工芸品づくりは全体のフォルムから
工房で中田は鋳型に日本の伝統的な模様をつける「模様押し」という作業を体験させてもらった。大小異なる大きさのあられ棒を使って押し当てるように模様をつけていく。均等に模様をつけられず、「はあ」と中田のため息が聴こえてくる。けれども志衣子さんは「逆にそれが面白い」という。
次第に「ものづくり」という観点の話になる。作業をしながら中田は「例えばいまはこうして模様をつけさせてもらってますが、ものを作り始めるのは模様から入りますか。それとも全体的なフォルムから?」と質問した。中田は自身が参加したREVALUE NIPPON PROJECTで作品を作ったときにフォルムから入ったというのだ。
志衣子さんも同じようにフォルムから入ることが多いという。ギャラリーで拝見した鉄瓶は、たしかにどれも魅力的な形をしているものが多い。その時代、その時代に心地よい形が誕生していく。今後も400年の伝統を守りつつ、南部鉄器の新しい可能性を模索する志衣子さんの活躍が楽しみだ。
家に代々受け継がれてきた伝統をしっかり守りながらも、時代に即したデザインと実用性を兼ね備えた、遊び心もある南部鉄器を製造しています。ぜひ手に取っていただき、南部鉄器のある暮らしのよさを知っていただけたらと思います。