日本舞踊・尾上流の三代目
日本舞踊の尾上流は六代目尾上菊五郎が初代家元として創立した流派。お話を伺った尾上墨雪さんは、三代目の家元だ。9歳の時に初代尾上菊之丞に師事し、21歳という若さで二代目尾上菊之丞を襲名、同時に尾上流の三代家元を継承した。その2年後には東京新橋の『東をどり』、京都の先斗町『鴨川をどり』の演出、振付指導開始し、その後も自らが舞うのはもちろん、多くの踊りの振付や演出を行ってきた。また、国内に限らず、海外公演へも積極的に参加し、フランス、アメリカ、スペイン、中国など多くの国で舞いを披露してきた。
理想の形は自然な動き
「お芝居でもテーマとは別に、身体の動きを見てしまうんですよ。身体そのものの動きを。だらだらしてしまうとつまらない。でもきっぱりしていればいいというわけでもない。自然で理にかなった動きが理想なんです」と墨雪さんは語る。
洗練された“流れ”を特徴とする尾上流
日本舞踊には、数々の流派がある。そして流派によって特徴がある。尾上流の特徴はと問うと、「流れ」という答えが返ってきた。
「洗練されて、流れるような動き。そういう意味では最先端の日本舞踊といってもいいでしょう。無駄なく動いて、空気の中を無抵抗のように舞う。空気とどうやって友達になるかということなんです。私たちの流儀はその流れる動きを優先させます」
“空気と友だちになる”と言葉で聞くと不思議に思うかもしれない。すると「弟子には水の中で動くとわかると教えるんです。体には水の抵抗がかかりますね。その水の抵抗を空気に置き換えて、常に意識するんです。重力や空気を意識することで無駄なく、理にかなった動きに近づくんです」そう説明してくれた。ストーリーを語る為だけに舞うのではなく、理にかなった動きをいかに追求するか。それが尾上流の洗練された舞踊につながるのだ。
合理性を身につける
「日本舞踊は、動き、所作、まずはじめに何を学ぶのですか?」と中田が質問する。
「呼吸ですね。呼吸にのせて立ち座りをする。呼吸とともに動く。呼吸にのせることであらゆる動きが可能になります。基礎の基礎です。様式ばかりにとらわれがちですが、基礎は合理です。」
尾上さんの話す“合理”という言葉には、重力や自然、人が動こうと制御する力といった自然科学を体で知るという意味が込められていた。
「合理性、さらに言えば科学的に日本舞踊を追求して“そうだよな”と納得してもらえる美意識にしていかなければいけない。そのうえで個性や個人の考え方が出てくるのが最高の形。そうしてこそ、日本舞踊のレベルがあがると思うんです」それはこれまでに、数えきれないほど稽古をし、舞台に立ってきた墨雪さんが舞いながら感じてきたことなのだ。
「能や歌舞伎の舞から半分飛び出して、様々なものを吸収しているのが現在の日本舞踊です。近代的な踊りなのです。しかし、歌舞伎に物語がついたのも芸能の歴史では最近のこと。それ以前は、踊りだった。常に改革が続いているということ、だから足を止めてはいけないと思います」
伝統を知り、先人に学ぶことは大切だ。そして常に向上心を持ち続けることがその時代の文化を作り上げていくのだ。