多くのファンに支持される靴メーカー「Guild」
96年に設立されたハンドソーンウェルテッド製法の靴メーカーGuild(ギルド)。ハンドソーンウェルテッドという製法は、数百年も前から伝わる手縫い革靴の代表的製法。中底が厚くしっかりしていて、構造的にも丈夫で型崩れせず、何度も底替えができて長く付き合える靴が作れるのが特徴。革靴はイタリアやイギリスからの輸入品が人気の上位を占めるが、そのなかにおいてGuildの靴は、ある雑誌の人気投票で見事に第一位と第二位を獲得したのだ。
今回お話を伺ったのは、Guildの代表取締役を務める山口千尋さん。社長としての仕事のかたわら、現在でも職人として腕を振るう。27歳のときにイギリスへ渡って、靴専門の学校で勉強をし、シューズパターン1級という資格を取得する。そして翌年、日本人として初めて、”ギルド・オブ・マスタークラフメンツ”の資格を授与された人物だ。帰国後はデザイナーとして活躍し、96年にGuildをした。
靴作りはオーダーメイドで唯一無二に
さて、ここで質問。靴を作るという作業とはいったいどのような工程をふむものなのか知っているだろうか。靴というと、既製品の靴しか知らない人が多いだろう。だから靴底はどんな風に作られて、どんな風に革が張りあわされてということは、ほとんど知らないのではないだろうか。
サッカー選手として、いくつものスパイクをオーダーで作ってきた中田も工程に関してはほとんど知らなかった。そこで一足ができあがるまでには、何工程ぐらいあるのかと中田が質問すると、返ってきたのは「家を一軒建てるような仕事」という答え。
採寸やデザインなどを決めていくのはもちろん、それぞれのニーズに合わせて、ときには足の医者とも相談しながら作らなくてはいけないから、正確に数をあげるのは難しいが、組み立てるだけで100以上の工程を踏むものだという。それに加えて、材質によっては裁縫仕事も必要になるし、トンカンと大工仕事のようなことをしなくてはいけない。
お客さんがどういう家を望んでいるかを聞いて、設計図を描いて、材料を調達して、図面通りに大工仕事をこなしていく。まさに家をひとりで建てるような仕事なのだ。そうしてやっとできあがるのが、それぞれ独自のデザイン、素材、サイズ、ちょっとした“歪み”を持つ、唯一無二の靴なのだ。
なぜ手作りにこだわるのか
それだけ複雑で技術が必要、さらに時間がかかる作業なのに、なぜ手作りにこだわるのか。中田が質問する。
「簡単にいえば“お足に合った靴”を作ることができるんです。かゆいところに手が届くっていうことですね。手作りなら左右個別に靴を作ることができる。左右個別って人の体では当たり前でも、既製品ではあり得ません。その人のためだけの靴を作る。単品生産は機械化する意味がありませんし、機械に出来ない仕事は人を幸せに出来ます。」
「本当に履き心地のいい靴って確かになかなか出会えない」と中田。それに応えて山口さんはこういう。「足に合ってないことに慣れると、合っているという状態が理解できない。合った靴に出会えてこそ、さらなる欲求が生じます。自分の更なる快適な状態への欲求。微妙なところに初めて気がついて、また作り込みを重ねる。それでこちらも工夫を重ねていく。1足目で100点というのは本当に難しい仕事。何故なら、お客様ご本人も探求すべきものだから。」
人によって、靴に求めるものは違う。ちょっときついぐらいでもシルエットが細いものが欲しいという人もいるし、単純に歩きやすいことが最優先という人もいる。
そういうニーズに向き合って、“よく話し合う”ことが一番だと山口さんは言う。「靴はベッドよりも長い時間を一緒に過ごす道具です。だからこそ、お客様の判定は厳しいこともあります。どんなに美しく出来上がっても、履いてもらえない靴が一番悲しい。そうならないためには、その人の好みを知らないと。だからね、2足目のご注文を頂いたときにやっと安心するんです。」