芸術と市民と共に歩む「横浜美術館」/神奈川県横浜市

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日本開国の最先端 横浜

神奈川県横浜市は1859年7月1日、日米修好通商条約を受けて日本開国の第一歩として開港した港町だ。アイスクリーム、ジャズ、ファッション、あらゆる文化が押し寄せ日本が急速に近代化していった時代において、横浜はまさにその当事者だった。芸術の分野にも大きな変化が起こる。海外から商船が入港すると多くの外国人技術者や芸術家が日本を訪れ、それまで日本にはなかった表現技法がもたらされることになったのだ。

平成元年・1989年に開館した横浜美術館はその歴史背景を一つの特徴としている。(注:2021年3月1日~2024年3月15日の間、大規模改修工事で休館中)

横浜開港の19世紀後半から現代までの西洋美術と日本美術の作品を中心に収蔵し、横浜美術館コレクション展(常設展)として公開している美術館だ。 この日、展示作品を拝見しながら横浜美術館館長の逢坂恵理子さんにお話を伺った。

「ここに今展示している人物画は、西洋画の油絵の影響を受けているんです。“遠近法”を用いた描き方も、海外から伝わってきたと考えられます。それまでの日本画にはない表現技法で描かれるようになったのですね」 日本人は西洋絵画を知り、また海外の芸術家も日本の影響を受けた、その一端を垣間見ることができる展示内容だ。 今回訪れたコレクション展は年3回程展示替があるという。このほか、企画展を年4回程度開催している。中でも現代芸術を取り上げる企画展では大胆に若手芸術家を取り上げ、大規模個展を開催するなど、独自の視点で展覧会を行っているのだという。(注:訪問したのは2012年3月中旬。最新の展覧会内容は美術館のHPからご確認ください。 注2 : 左写真 撮影 笠木靖之)

写真の発展を見つめる

実は、横浜は写真とも深い関係を持つ場所だ。江戸時代末期の日本には、長崎の出島に出入りするオランダの商船から写真の技術が伝えられていたが、街に写真館が始めて誕生したのは横浜だった。横浜美術館では、写真文化の発展とその芸術性に着目し、写真のコレクションにも力を入れている。写真専門の展示室を設けているのが特徴的だ。 取材の際には、今から約100年前の神奈川県内の名所を外国人写真家が撮影した写真が展示されていた。ただの写真ではない、モノクロ写真の上から絵の具で着彩が施され、一見すると絵のようにも見える写真だ。まだカラー写真がない時代にも、風景の色彩を残したいという意図があったのかもしれない。 写真創成期から、現代芸術としての写真までを収蔵・展示し、写真作品の持つ魅力を紹介しているのだ。

芸術に触れる心地よい場所「アトリエ」

横浜美術館はもうひとつの顔を持つ。中田が見学させていただいたのは、「市民のアトリエ」と「子どものアトリエ」。高い天井と白い壁が心地よい広々とした「市民のアトリエ」の作業スペースは、市民が創作活動を行うことができる。個人ではなかなか持つことができない制作設備が用意されており、版画、絵画、彫刻、陶芸など様々なジャンルに対応しているという。アトリエには指導員が在籍しており技術指導を受けることもできるのだが、年間を通して、アーティストの方を招いて創作ワークショップが開催されている。また、ダイナミックは活動ができる多目的なスペースを有する「子どものアトリエ」では、様々なワークショップを開催。
案内してくれた、創造支援担当グループ長の関淳一さんから、こんなエピソードも。「開館以来23年近くアトリエを開いているので、むかし参加していた子どもが大人になり、自分の子どもと一緒にまた参加するという方もいらっしゃいました」
作品を鑑賞するだけでなく、体験することも大切。積極的に文化を育む美術館として、多くの人に親しまれているのだ。

ACCESS

横浜美術館
神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
URL https://yokohama.art.museum/
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