計算された文様。
福野道隆さんの作品の特徴はなんといっても赤絵絣文(あかえかすりもん)。シンプルで心地良い線、文様が創りだす独特な温かさが、福野さんの代名詞だ。文化庁の研修生として九谷で研修を受けた絵付けの実力が発揮されて、どこまでも計算しつくされた文様を描き出す。 柔らかな色彩は、一見、上絵で描き出しているのだろうと思ってしまうが、ほとんどが上絵と下絵を合わせて描き出されたものだ。明るい色調と交わり、うっすらと背面に浮かぶ影のような色彩が作品に深みを感じさせる。この微妙な色彩は、土のこと、焼き上がりのこと、絵の具のこと、そのすべてを計算していないと描き出せないものなのだ。
布目を用いる。
福野さんは笠間焼の巨匠ともいえる伊藤東彦さんに師事していた。伊藤東彦さんの作品の特徴は、布目を使っていること。焼き上げる前に濡れた布を土に貼り、器の肌に布の目をつける技法だ。師匠のその技法を福野さんも習い、同じく布目を使った作品を作ることになったという。 「文様が描きたかったので、布目をあわせて何か自分のものにできないかな、と思って作っています。」師匠は布目と草木の絵を生かす作品を生み出し、福野さんも自身の描く文様で新たな陶芸作品に挑戦している。
「色彩の文様なのですが、色ではないくらい、淡い色を描けないかと考えています。色でないような色の文様。そういうものを作ってみたいんです。」 文様にかける執念のようなものが話の端々から感じられる。それは作品からも滲み出ているようだ。
”まめ”であること
工房では湯のみに絵付け体験をさせてもらった。中田が身につけていたチェック柄のマフラーをお手本にして、まずは湯のみに線を引いていく。それから絵の具の選定。マフラーは四色の配色がしてあったので、当然四色を使うものだと思ったのだが、二色をベースにグラデーションをつけるという。
そして絵の具の作成。そこでとりだしたのが、分銅を使う“天秤はかり”。この絵の具づくりの作業がものすごく細かい。きちんとした分量になるまで、きっちりと計る。 中田はその作業を見て「まめ、ですよね?細かい!」と何度も口にしたが、福野さんは「そうでしょうか。」とひたすら謙遜していた。絵の具の配合によって、微妙な色の差が出てしまう。その細かい気配りが福野さんの作品を左右する魅力になっているのだ。
中田は時間をかけて器にグレーの文様を描いた。最後に福野さんに「きれいに焼きあがると思います。」と太鼓判を押され、焼成をお願いする。文様と色彩を感じる。またひとつ、陶芸の魅力に触れることができた。