茶道の歴史を支える千家十職
「黒田正玄(くろだしょうげん)」という名は、千家十職(せんけじっしょく)のひとつである。
千家十職というのは、三千家の茶道具の製作を任されてきた職人の名。そのなかで黒田正玄は、竹細工や柄杓師を務める家だ。茶杓、柄杓のほか、台子(だいす)や香合(こうごう)など、竹を使った茶道具を千家に納めてきた家系である。
今回訪れた黒田正玄さんは、13代目。初代正玄は関が原の合戦ののち竹細工師となり、小堀遠州などの推挙で江戸幕府御用達となったというから、すでに400年も続く名前である。
竹を切り出し、命を吹き込む
まずは竹を見せてもらう。竹置き場には、太さも長さも様々な竹が置かれていた。黒田正玄さんの工房では、代々自ら竹を切り取りにいき、竹を選ぶところから作業されているのだという。切り取った竹は水分が抜けるまで乾かし、炭火で燻して油分を抜く。その後、天日に干して白っぽい色になったところから、さらに4、5年倉庫で寝かせる。この工程を経て、やっと材料が出来上がるのだという。整列した竹は、黒田正玄さんの手によって命を吹き込まれるのを待っているかのようだ。
工房では、中田も茶杓作りを体験させて頂いた。茶杓の曲がった部分は、水につけておいた竹をランプで熱して角度をつける。さらに、削りの作業では、硬い竹に負けない鋭い刃物を使っての作業となった。
お弟子さんにもフォローしていたき、集中して削っていると、一部分を削りすぎてしまった。微妙なバランスをとらなければならないのだ。気を取り直して、2本目に挑戦。
茶杓に表れる人柄
「茶杓はその人の人柄を象徴しますね。豪胆な性格の型は茶杓も太いですし、繊細な型は細い茶杓ですし。中田さんは、やはり茶杓の幅も広めの形はどうでしょう。」黒田正玄さんにアドバイスを頂く。
最初は中田の傍らに立ち、作業を見つめていた正玄さんだったが、少しすると自らも竹を削り始めた。最後には、工房に二人が竹を削る音だけが響いていた。
伝統と技術を受け継ぎ、それを後継に託す。黒田正玄という名には、400年の歴史と伝統が息づいているのである。