帽子のオートクチュール、“オートモード”
まだ海外渡航の自由化がされていない1960年代前半に単身フランスへ渡り、オートモードの巨匠ジャン・バルテに師事しその技術を日本に持ち帰った帽子デザイナーが平田暁夫さん。オートモードとは、洋服で言うところのオートクチュールのこと。できあがる帽子は、採寸はもちろんのこと、デザインから素材決めまで、すべてをオーダーメイドで作る世界でただ一つの帽子だ。
平田さんはフランスから帰ると、その技術を活かし、日本のデザイナーは勿論バルマン、ニナ・リッチ等のオートクチュールの帽子を担当、日本のファッションショー黎明期を大いに賑わした。その一方でオートモードの技術が評価され、日本の皇室を始め、世界各国の王室からもオファーがくるようになった。
87歳の現在でも現役。2011年には第29回毎日ファッション大賞を受賞するなど、第一線で活躍しているデザイナーだ。
手作りだから行き届く心遣い
今回はそんな世界的デザイナーである平田さんのアトリエにおじゃました。案内してくれたのは平田さんの娘さんであり、自身も帽子デザイナーとして活躍する石田欧子さん。まず工房を見学する。工房にはさまざまな型があった。顧客ひとりひとりの型をすべて残しているといい、それに合わせて素材を選び、デザインに向けて形を作っていく。もちろんコサージュも手作りだ。既製品にはできない細かな配慮が帽子の隅々に行き届く。
オートモードの帽子作りを支えるひとつの素材を見せていただく。帽子の原型に使用するスッパトリーという素材だ。木を細かく削ったもので、湿り気を帯びると自由に折り曲げることができるため自由自在かつ、繊細なフォルムの帽子の原型を作ることが可能になる。スパットリーで作った仮の帽子の内側にスパットリーを幾重にも切って貼り、石膏状の塗料を塗ってその人の為の木型をつくる。その型を使って帽子を作っていくのだ。現在ではスパットリーを生産する人がいなくなってしまったことから大変貴重になっているのだという。
帽子は飾るものでなく被るもの
欧子さんにお話を聞いていると平田さんがいらしてくれた。肩書きだけ聞くとカチッとした方とも想像するが、非常に柔らかな物腰の方だった。
「せっかくですから、頭のサイズだけでもいただいておきましょう」と言って、中田の頭を見てくれる。
「横よりも後ろのサイドがはってますね。後ろのサイドだけ。ただ、まえがすごく出てる。そこで止まるんだな」と、平田さんの頭にはもしかしたら帽子のイメージが出来ているのかもしれないと思ってしまった。
「自分の頭のサイズをわかっていない人も多いんじゃないかな?スーツは作るけど、帽子は作ったことないですね。」と中田。
「日本は帽子を楽しむ場所が少ないね。欧米では結婚式でも、卒業式でも帽子を被ることがある。」
そして平田さんの作った帽子を手にとり、実際に被ってみる。後ろをうんと浅く被って、前を深くかぶるとかっこいいとか、サングラスをしたときの帽子は難しいとか、帽子談義に時が進むのを忘れる。
「帽子は飾るものではない、かぶらないとダメ」と平田さんは言う。ここまで日本のオートオードの基礎を築いてきたデザイナーは、帽子はその人を引き立たせるものだという。
そう話す平田さんはすごく楽しそうな顔をしていた。