金属の質感を表現する工芸 金工家·奥村公規さん/東京都小平市

金属の質感を表現する工芸 金工家·奥村公規さん/東京都小平市

刀の鍔の魅力

奥村公規さんのもとを訪ねると最初に見せてくれたのが、刀の鍔(つば)。

「これ見てください。とにかくおしゃれなんですよ。刀を差したときにどこから見られるかということがきちんと考えられている。だから文様を入れる位置も計算され尽くされているんですよね。デザイン力がすごいんです。それから、表面が均一になるとつまらないんですよね。鉄の肌合いや色合いを楽しむようにもデザインされているんですよ」

奥村さんは金工家。1975年に武蔵野美術大学を卒業し、作家活動を始める。1995年の日本伝統工芸展で文部大臣賞を獲るなど、これまでに数々の賞を受賞している作家だ。

金属だからこそできる表現

奥村さんが2012年春の東日本伝統工芸展に出展していた、鉄地象嵌小匣(てつじぞうがんこばこ)の「離れ(はなれ)」という作品。中田が「金属に見えない」とびっくりするように、見た目は漆塗りの木箱のよう。でも触ると金属の触感が伝わってくる。奥村さんの作品は繊細な柄を描きながらも、質感を残したものが多い。その微妙な質感を表現するには、素材の時点でサビを残してテクスチャーをつけるのだという。
「金属はそれほど種類がないですよね。それなのに、技術の組み合わせで、表現がまるで違ってくるのがすごくおもしろい」その中田の言葉に奥村さんもうなずく。
文化財の復元に携わると、過去の人と金属とがどのように関わってきたのかを実感できえる。そして古いものを学びつつ自分がいいと思うもの、面白いと思うものには積極的にチャレンジしているという。

刀の柄(つか)を作って遊んでいた

「今日はペンダントでも作ってもらおうと思って」と奥村さんが金属の板を中田に渡す。
「デザインって苦手なんですよね」と考え込んで、中田が書き込んだのが“旅”という文字。「いつも旅しているので、これでいきます」と中田。
いざ、銀の板をペンダントトップの形に丸く切り出す。切る道具は糸鋸。これがやはり難しい作業。悪戦苦闘しながらも何とか丸く切り抜く。そして次に待っているのが、たがねで文字を刻み込む作業。奥村さんにいろいろ指導していただきながら、たがねを打ち込んでいく。

「うーん、うまくいかないですね。どうしても線がきたなくなっちゃう」
「それもいいんですよ。今は旅の途中、作ったときのことがわかるじゃないですか」と奥村さんは言う。
「僕は昔からものづくりが苦手だったんですよ」と中田が言うと「私は中学のころから、仲の良い友人と一緒に、刀の柄(つか)を作って遊んでました。実物からかたどりし、鉛で作った目貫(めぬき)を柄の紐で巻き込んだりして遊んでました。それを背負ってたらおまわりさんに止めらたこともあったっけ」と奥村さんは笑っていた。
そうこうしているうちに、ペンダントトップが完成。奥村さんに仕上げをしてもらって、この世でひとつの“旅”が完成した。

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