山形を代表する果物、さくらんぼ
さくらんぼといえば、山形。山形といえばさくらんぼともいえてしまうぐらいに、山形を代表する果物といえばさくらんぼがあがる。もちろん収穫量、出荷量ともに全国一位。シェアの7割程度を占めている。
そのさくらんぼ王国山形のなかでも“名人”と称されるほどの人物がいる。それが今回お話を聞いた軽部賢一さんだ。軽部さんがこだわりを持って丁寧に育てるさくらんぼはとにかくおいしい。その味に魅了され、軽部さんの栽培方法を手本にするさくらんぼ農家は全国にいるという。それが名人と言われるゆえんだ。
この日は雨の降るなかの取材となった。「さくらんぼは雨が天敵なんです」と軽部さんはいう。雨にちょっとあたるだけで、実が割れて商品として出せなくなることもあるそうだ。現在は雨よけのテントを張り、対策はばっちりだが、それがないときは収穫が梅雨の時期と重なることもあり、ヒヤヒヤすることばかりだったという。
人気の佐藤錦と実力の紅秀峰
さくらんぼというと「佐藤錦」という品種が有名だが、取材時は佐藤錦の収穫は終わり、木になっていたのは「紅秀峰(べにしゅうほう)」という品種。佐藤錦よりもおお振りで、糖度が高い品種だ。
木からひとつ実をとって軽部さんが中田に食べてみてと手渡した。口に入れて一口噛むと、中田の顔の色が変わった。とてもさくらんぼとは思えない甘さ。それもそのはず、糖度は25度程度もあって、桃やメロンにも負けないぐらいの甘さなのだ。肉厚な果実の歯ごたえもたまらない。
「人気の佐藤錦、実力の紅秀峰です」と軽部さんはいう。「甘味が強くて、酸味が少ない。もちろん人それぞれの好みはありますが、私は実は佐藤錦よりもおいしいと思っています。それだけにプロとしても作りがいのある品種だとも思いますね」
紅秀峰は山形県の農場試験場で生まれた「紅シリーズ」のひとつだ。一般化する前から、その味に惚れ込んで力を入れて栽培している品種だそうだ。
さくらんぼの剪定作業はワクワクの連続
これほどまでにおいしいさくらんぼ。「さくらんぼ栽培のなかで一番重要なことは何ですか」と中田が聞くと、すぐに「日当たり。日が当たらないと味がのらないし、色もよくならない」と軽部さんは答えてくれた。
その日当たりのためにできる作業は、枝の剪定作業のみ。その一手がさくらんぼの味と色を決めるのだから、「もっとも面白い作業」だと軽部さんはいう。
「本当に剪定によってまるで違うものができる。粒の形からもちろん味まで。だから面白い。おてんとうさまに十分にあたるように、細かいとこまで気を聞かせてハサミをいれていく。面白いことにあまり早く剪定すると木が反発するんですよ」
丁寧に向き合ってさくらんぼを“育てる”
まるで人間に対するような言い方のように聞こえた。さくらんぼの木は40年ほどの寿命だという。それを軽部さんは「人間の半分の年齢」といっていた。実がなるまでに7年から8年かかるそうだ。人間にすれば15歳くらい。かつて元服を迎えていたころだろうか。それから30年近く寿命を終えるまで、毎年丁寧に向き合って剪定していく。そして毎年おいしいさくらんぼをつける。“育てる”という言葉がぴったりだ。
さくらんぼ名人が丁寧に育てた紅秀峰。ぜひ食べてみてほしい。