多くの人に愛される日本酒「神聖」
「かあちゃん、いっぱいやっか?」――人気喜劇俳優・伴淳三郎を起用したテレビCMで一世を風靡した、銘酒「神聖」。昭和37年にブームを巻き起こしたCMだから、まだ生まれていない読者も多いだろう。
神聖は、CMのずっと前から愛され続けてきた酒だ。明治から大正にかけて活躍した日本画家・富岡鉄斎も、この酒にほれたひとり。山本本家の8代目は茶道や和歌にも通じた風流人で、多くの文化人と交わりがあった。
そのなかのひとりが富岡鉄斎で、現在もラベルに使われている毛筆の文字は、9代目の結婚の際に、鉄斎から贈られた書をそのまま使ったものだそうだ。
革新的な技術を取り入れる
創業から300年以上経つ老舗だが、その伝統におごることなく、常に先進的で研究にも余念がない。特筆すべきは1966年にバイオテクノロジーを駆使して開発した、純粋酵母仕込みという技術。酒母なしでもろみを作るという画期的な技術で、日本生物工学会が認定し、醸造界ではもっとも権威ある江田賞を獲得した。この技術を利用し作られた「源ベエさんの鬼ころし」という酒は、よりさっぱりした飲み口で、人気のある銘柄のひとつである。
おいしく日本酒を飲んでもらうため
現在の山本本家を代表する銘柄は、裏千家御用達の「松の翠」。香りの高い日本酒で、お茶事に使われる逸品だ。ちなみに、伏見のグルメスポットのひとつともなっている居酒屋「鳥せい」を作ったのも、山本本家。
すべては、おいしく酒を飲んでもらうため。老舗という看板によりかからない、自在な変化を楽しむ姿勢が、山本本家の人気を生み出しているのかもしれない。