六本木で陶芸をする
陶芸家 前田正博さんがアトリエを構えるのは、東京のど真ん中の六本木。こちらには電気窯もあり、陶芸を行うことができる。常々、作陶したいと思っていた中田もこのシチュエーションには喜びを隠せない。
「友だちにも陶磁器を作りたいという人がけっこう多いんですよ。でも場所がどうしても遠くになってしまうので足が遠のいてしまうんです。でもここならいつでも通えていいだろうな」
前田さんはこちらのアトリエで六本木陶磁器倶楽部を主催し、自身の作陶とともに、陶芸教室も開いている。土地柄もあり、様々な人が教室に訪れるという。それだけ作陶をしてみたいという人が多いのだ。
金彩、銀彩、赤に魅せられる
前田さんの作品の特徴は、金彩や銀彩を何層も重ねて絵を描き込むということ。マスキングテープを使って色をつけたいところだけを塗り分けて焼く。その工程を何度も繰り返して、様々な色を塗り重ねた絵ができあがるのだ。温度を調整しゆっくり丁寧に焼いていけば、何度焼いても作品にヒビが入ったりすることはないそうだ。戸棚にならぶ作品を見せてもらう。そこには色とりどりの器がある。なかには赤や青といったビビッドな色を使ったものもある。
「こういう原色に近いものはあまり見ないですよね」
「油絵具の赤系は出にくい色なんですよ。でも出すことはできる。実は原色系がないのは、日本の食卓に合わないということで人気が出ないから。自主規制に近いかな」
すると、「黄色とかあっても面白いと思うんだけどな」と中田は、作品をいくつも手に取り代わる代わる眺めていた。
陶芸のデザインを楽しむ
「赤だとこういうのも」といって出してくれたのが、蓋のついた大きな作品。外は赤で彩られて、漆塗りのようにも見えてくる。その蓋を開けると、中は金と黒の鮮やかな彩色が施されている。外で楽しみ、中でもまた楽しめる。
ほかに、質感にもこだわる。中田が「これは陶器ですか?」と言った作品がある。「これは陶器なんです」と前田さんは言う。表面にザラリとした質感を加えて、見た目だけでなく触った感触も楽しませてくれるのだ。
「磁器はツルっとしているというイメージがありますよね。だから逆にザラっとした質感を加えているんですよ」
色による絵。外はシンプルに、中は豪華にというデザイン。質感による表現。そういったデザインを楽しむという感覚が前田さんの作品の特徴なのだ。
それを裏付けるように前田さんが一冊の本を出してくれた。着物の型紙の見本帳だ。「すごくかっこいいでしょ。絵付けに使えるって刺激されて、いつも買ってしまうんです」と前田さんは言う。
それとともに前田さんが出してくれたのは一枚のシート。顔料の溶剤が入っていて、切って陶磁器に貼り付けて焼くと、はっきりとした色が付くのだ。「子どもの工作感覚で陶器デザインができるという感じですね」と中田がいうと「その通りですよ」と前田さんも答える。そのシートで色をつけるほかに、ぼかしも入れていく。様々なアレンジができるのだ。そんなふうにしてかっこいいを「楽しむ」ことで器は生まれていくのかもしれない。