伝統工芸にも新しい技術を 陶芸家·小山耕一さん/東京都台東区

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陶芸には珍しいピンク色を出す

陶芸家小山耕一さんの作品の特徴のひとつが、金属を塗布して色と質感を出すというもの。線彫りをした部分を紋様ごと区画にわけてマスキングをして部分ごとに塗料をつけていく。この技術でしっとりとした光沢やあざやかな青色、何とピンク色までをも表現してしまうのだ。
このピンクの焼き物は20世紀後期に活躍したオーストリアの陶芸家ルーシー・リーの作品の復元作業のなかで見つけたものだそう。焼き物でピンクというとあまり見たことがない。
「ピンクって日本の陶器にはあるんですか?」と中田が聞いた。
「ないことはない。でもこの色は西洋のもの。陶器は東洋から始まったものですけど、この色は東洋にはなかった。それで初めて見た人たちは驚いたんです」

知りたい事はまだまだある

この色の表現を可能にしたのが、科学技術だったのだ。小山さんの作品も科学が大いにかかわっている。小山さんがこういった作品を作り始めた発想のものとは「陶器にメッキはできないものか」というところから。大胆な発想だ。試行錯誤を繰り返し、元素表に乗っていて手にできる金属をいろいろ試したと言う。そうして、チタンで青を発色することができることを知り、ビスマスという金属でピンクが出ることも知ったのだ。焼成温度によっても色は変わってくるという。
中田もじっと見つめて「たしかに陶器からはあまり想像できない色ですね」と話す。それを生み出しているのは、科学の力でもあったのだ。
「色々まだまだ知りたいことはたくさんあります」と小山さんは言う。伝統として師から弟子へ技術として伝わっているものもある。しかし、作家としてその技術を選べるように“どういう構造になっているのか”ということを知るという作業も、伝統を深めることにつながるのかもしれない。

常に新たな陶芸を目指して挑戦

金属を塗って色出すというこの作風への挑戦が始まったのは15年前。「それまではカルチャースクールの先生に専念していました」と話す。小山さんの作品は“伝統工芸”だ。しかし、小山さんは「便利なものはどんどん使っていきたい」と言う。
「新しいものでもどんどん取り入れたい。科学的に処理した純度の高いものでなければできない表現もある。現代だからこそできるんです。作家である以上、どんどん新しい挑戦をしていきたい」そう話してくれた。

挑戦は新たな伝統を生む。これまでの歴史が証明してきたことだ。小山さんの挑戦は、伝統を覆そうと挑みかかるのではなく、伝統を取り入れて新たな形に変化させていく。わたしたちが今日享受している伝統や文化というものは、常にそうした挑戦から生み出されたものなのに他ならないのだろう。
陶芸という何千年の歴史をもつ工芸の世界において、「つねに挑戦していきたい」と語るその言葉を聞いて、あらためてその事実を思い知らされた。

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東京竜泉窯陶芸教室
東京都台東区竜泉1-31-7
URL http://www.ryusen.jp/
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