「器は、使う人により育つもの」唯一無二の作品をつくり続ける 陶芸家 三笘修さん/大分県日田市

大分県北西部に位置する日田市。自然豊かな日田の灰や土を使い釉薬をつくり、人々の生活に寄り添う器を手掛ける陶芸家・三笘修(みとまおさむ)さん。日々の暮らしの中で生まれる「美しいもの」や「魅力的なもの」を追求、表現し続けている。

目次

焼き物との出会い

2007年、故郷である日田に築窯した三笘さん。高校卒業までを日田で過ごし、デザインを学びたいという想いから、東京学芸大学の教育学部に進学し美術を専攻した。当時は、車などの工業デザインに興味があったというが、大学で才能ある人たちにふれて、自分の未来に悩んでいた時に授業で出会ったのが焼き物。その面白さにどんどん惹かれ、のめり込んでいくようになったという。生まれ育った九州は焼き物も盛んで、日田では一子相伝で受け継がれる「小鹿田焼(おんたやき)」や、近県である佐賀の「有田焼(ありたやき)」も国内外から高い人気を誇る。三笘さんの手掛ける作品とはテイストは違えど、小さい頃から陶磁器に触れるという意味では焼き物は常に身近にあったといえる。三笘さんが焼き物と出会い、地元に戻り工房を構えるという人生は、ある意味偶然ではないのかもしれない。

「型作り」で表現されるゆらぎ

三笘さんの主な技法は、「型作り」。ろくろは使わず、型による成形や手びねりだけで器をつくっている。大学の授業でろくろも体験したが、技術が身に付くまでに数年という時間を要するうえ、頭の中の理想のイメージと出来上がりのギャップが大きく、ろくろは性に合わなかったという。自分らしいスタイルを見つけるため、様々な雑誌を読み、展覧会を巡りながら見つけたのが「型作り」だった。また同じ頃、京都で人間国宝である石黒宗麿(いしぐろむねまろ)の作品を見る機会があった。その作品の中に、型でつくられているものがあり、「これがいいな」と直感的に思ったことが決め手となった。そのまま京都の型作りの先生のもとに弟子入りし、本格的に型作りを学び始めた。

手で生み出されるニュアンス

三笘さんの器づくりは、まずイメージをスケッチしてデザインすることから始まる。描いたものを立体的になる様を見比べながら粘土を成形し原型をつくり、石膏で型をとる。型を張り合わせ、ひとつひとつ指で押さえてなめらかにし、特に口の部分はかなり薄めに仕上げるのが特徴のひとつ。また、器を持ったときに重心が下にある方が持った時の感触が良いため、腰の部分はわざと厚めにしメリハリをつけているという。すべてが手作業なため時間は要するが、それでもこの技法にこだわるのは、型作り独特の「ゆらぎ」を表現するため。型作りは、生地を型に当て上から叩くことで粒子が乱れムラができ、焼成後に予測できないような動きがプラスされる。ろくろ挽きでも勿論ゆらぎは出来るが、型作りの工程の中で生まれるゆったりとしたリズムや指の圧力、そして手掛ける時間が、唯一無二の個性に繋がっていると三笘さん。彼が手掛ける器の魅力となる柔らかな揺らぎ、美しい歪みはすべてを手でつくることで生まれている。

「こだわらない」こだわり

“一つとして同じものがない” それが三笘さんのつくる作品の大きな特徴でもある。

型おこしをする段階では端正な形を意識してシャープにつくるが、焼成することで独特のゆがみやゆらぎが出ると三笘さん。指圧ひとつで仕上がりに大きな影響を与えるが、それがまた面白いのだと笑顔をみせる。「毎回思い通りにいかず、コントロールできないのが陶芸の楽しさのひとつ。1から100まで人間の思い通りにつくったものは、あまり面白くないかな。」と三笘さんは言う。陶芸を始めた当初は、自分のデザイン通りにつくりたいという思いがあったが、月日を重ねていくうちに思い通りにいかない事も魅力だと感じるようになったという。また、器は使う人によって育つものだと言われ「焼物はこうあるべき」というルールは持たないが、唯一こだわるのは釉薬。陶磁器の表面を覆う釉薬は焼成することで様々な表情を生むが、三笘さんは地元の天然原料を使って地味(ちみ)ある器を作りたいと思っている。

自然からなる釉薬で伝えたいもの

独立してすぐの頃は、自分の作品に個性を出さなければという想いが強く、あえて使い勝手の悪い形や色の器を作ってみるなど、紆余曲折の日々が続いた。釉薬も市販のものを使用していたという。そんな折、知り合いから経筒(きょうづつ)を作ってほしいと依頼があり、たまたま人からいただいた天然灰で釉薬をつくると、とてもやさしい色合いの器が完成した。その方から、「その釉薬が一番あなたらしいよ」と言われたことがきっかけとなり、天然灰などの自然の原料にシフトするようになったという。自然の原料と言えど同じ木でも、幹と枝の部分では出る色が変わってくる。また土地が違えば養分も違う。更には同じ釉薬で焼いても、還元焼成と酸化焼成で焼き方が変われば仕上がりは大きく変わってくるが、毎回違った表情が見られるのが焼き物の一番の魅力であり三笘さんの個性に繋がっている。

また三笘さんの釉薬は、地元の山から採ってきた材料を手で砕き、自作しているため長い時間を要する。すべての工程を1人で行っているため生産量が少なく、「手に入らない作家」として知られている。手間ひまをかけ完成される作品は、色や濃淡、釉薬からなる表情、焼いた後のゆがみやゆらぎ、そのすべてが唯一無二の存在となる。他と一線を画す独特のオーラを放ち、無駄なものを省いた繊細なエッジなど、シンプルな中に個性を求める人に愛されているのだ。

使う人の想いをつなぐ、結ぶ

今から15年ほど前、台湾のお茶の先生と知り合ったことをきっかけに中国茶器も手掛ける三笘さん。中国や台湾にも足を運び、先生が持つ宋の時代や明の時代の器を見せてもらい、実際に使わせてもらった経験は大きかったという。「焼き物や作品を、どれだけ多く見るかが経験となり目を養うことにつながる。器や急須は、使っていくと育つもの。日本独特の文化「金継ぎ」もそのひとつだが、古くなるのではなく紡いでいくことで味が出る。」焼き物に限らず、詩や彫刻なども本物を感じられるものが好きだという三笘さん。中国や韓国、ヨーロッパなどの古い美術品からインスピレーションを受けつくられる作品は、日本のどの焼き物文化にも属さない独創性がある。

自分で作って美しいと思うものを見た瞬間、日常で仕事に集中できているとき、想像していないものが出来上がったとき。そんな日常のワンシーンが喜びであり、最大の癒しになると三笘さんは笑顔をみせる。「淡々と過ごす日々の中で、美しいものや偶然できた産物に出会い、充足の繰り返し。そこに、作家の主張はいらないのかな。」

作り手の想いだけはなく、ただ、使う人や見る人の想いを反映できるようなものを作りたい。そう言いながら、三笘さんは今日も5坪の工房で、人々の生活に寄り添い愛される作品をつくり続ける。

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三笘 修
大分県日田市
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