目次
蒔絵を施したきらびやかな下駄「駿河塗下駄」
カラン、カランと響く涼しげな下駄の音。白木、漆塗りさまざまあるが、静岡の下駄は漆塗りの上にさらに蒔絵を施したきらびやかな下駄だ。
これは「駿河塗下駄」といわれ、明治初期に本間久治郎という下駄職人が大衆向けの下駄に塗りを施したのが始まりといわれる。もともと静岡では漆器生産が盛んだったので、その技法を応用した。それが全国で評判を呼び、静岡といえば駿河塗下駄といわれるほどに人気を博した。
お話を伺った佐野成三郎さんは、駿河塗下駄の職人のひとり。
学校卒業と同時に叔父のもとで塗装の修業をし、その後家業の塗下駄の仕事に入った。その技術、とくに彫りと塗りを応用した香雅彫りや、沈金彫りの完成度の高さが評価され、数々の賞を受賞している。
かかとがちょっと出るぐらいで履くのが粋
佐野さんによると「昭和20年代、30年代は静岡市の3分の1に近い人たちが下駄に関わる仕事をしていた」そうだ。しかし、現在は職人が5人。何とか技術を残そうと、佐野さんは静岡塗下駄工業組合の理事長としても活躍している。
佐野さんが中田に足のサイズを聞く。
「じゃあ、これはどう?」といって差し出された下駄に足を入れると、少しかかとが出てしまった。
「これでいいんですか?」と聞くと、「そうだね。鼻緒が慣れてくれば、もうちょっと深く入るから。
それに、かかとがちょっと出るぐらいで履くのがカッコいいんですよ」と佐野さん。
たしかにそれで立ってみると、背筋がシャンと伸びる。
日本の粋。まだまだ知らないことが多いことに気づかされた。