各方面から評判の「SUWADAのニッパー型爪切り」
誰もが日常的に使用する生活道具のひとつ「爪切り」。手と足の爪を切る、ただそれだけのための快適さ、使いやすさに特化して、戦後70年以上、職人的な技術を磨き上げてきた企業が新潟県三条市にある。「株式会社諏訪田製作所」だ。「SUWADA」ブランドとして国内外で数々の賞を受賞し、世界的にも有名な製品の特徴は、何といってもニッパー型の形状にある。クリッパー型と呼ばれる従来の折りたたみタイプの爪切りは、使用するときの刃の開きが2~3ミリと短いため、巻き爪や変形の爪の場合、思うように切れないことが多い。しかしニッパー型であれば刃先が大きく開き、切る部分へのアプローチの角度も自在なので、どんな形状の爪も切りやすい。ネイルアーティストや医療・介護関係者からも高い評価を得ている。
諏訪田製作所の創業は、大正15年(1926年)。関東大震災後の住宅復興需要に合わせ、大工職人が使う「喰切(くいきり)」という道具を作り始めたのが原点だ。喰切とは、木材に釘を打った後、不要な釘頭(くぎあたま)を落とすために使用する刃物のことで、「ふたつの刃が両側からぴたりと合わさって対象を切る」製造技術と形状が現代のモダンな爪切りへと進化したというわけだ。創業以来諏訪田製作所の技術力の代名詞である、合刃(あいば)の技術が他とは一線を画す切れ味を生み出している。手やすりで刃を磨きミクロン単位で研磨しながら調整を加える。全行程の中でも一番難しく時間のかかる繊細な工程は熟練の職人が代々技術を受け継ぎ守っている。こうして生まれる切れ味がプロたちの圧倒的な支持を得ているのだ。
「SUWADAのニッパー型爪切り」だからこその特徴
素材の吟味から鍛造、部品加工、研磨、合刃にいたるまで、諏訪田製作所のすべての製造工程は熟練した職人たちのクラフトマンシップによって支えられている。たった一本の爪切りであっても、完成までの工程は50~60にも及ぶ。商品によっては100を超える工程を経てようやく仕上がるものもある。品質と美しさに妥協はない。現在、8,000本/月のペースで生産を続けているが、注文に追いつくのがやっとで在庫に余裕がないほどの人気だ。「諏訪田製作所が作るのは、本物で、かつロングライフなものです。ここまで爪切りを突き詰めている会社は、他にはないと思います。」営業部長の斉藤類さんはそう言って胸を張る。刃物なので、使用を重ねるうちに切れ味が悪くなることも、バネがきかなくなることもある。諏訪田製作所はすべての自社製品のメンテナンスに対応している。職人が刃を研ぎ直し、動きの調整やバネの交換を行うことで、まさにロングライフなアイテムとしてずっと使い続けることが可能なのだ。
成長を続ける諏訪田製作所
2020年には、「開かれた工場」としてスタイリッシュなオープンファクトリーをオープンした。インテリアはすべてブラックで統一されているが、そこには諏訪田製作所ならではの理由がある。鍛造の工程において、職人は火に熱された材料の色でその出来を判断する。そのため目視がしやすいように昔から暗い場所で作業が行われてきたのだ。工場見学を通して職人の実際の製造現場を一般に開放することで、ものづくりの哲学や製品への理解が深まり、同時に職人たちのモチベーションも上がったという。現在はショップ、レストラン、カフェも併設し、このエリアの観光スポットのひとつとしても有名だ。創業からもうすぐ100年。「本物を生み出す」ための徹底したこだわりによって磨き上げられてきたニッパー型の爪切りは、すでに究極の完成形にたどりついたように見えるが、「まだまだ改善したところはたくさんある」と斉藤さんは言う。また新たにキッチンやダイニングに使える道具という新たなフィールドへのチャレンジを始めている。2020年のグッドデザインを受賞した「ソムリエナイフ」と「ワインオープナー」は洗練されたそのデザイン性や機能性が認められたことはもちろんのこと、これまで直結しなかった「食」のフィールドへの台頭を知らせるきっかけともなった。これ以外にもカトラリーのバリエーションを広げるなど、諏訪田製作所の新しい取り組みが注目を集めている。よりよいものを常に求め続けるその妥協のない姿勢こそが、世界が評価する諏訪田製作所のクラフトマンシップに違いない。