しなやかさを生かした竹工芸
シルクのように繊細な表情を見せたり、自然のままのような荒々しさを感じさせたり、編み方次第で自由自在に造形することができる。花籠やカゴバッグのような便利な実用品にもなるし、抽象的な芸術作品にもなる。丈夫でしなやか、抗菌性もある。竹という素材は、本当に興味深い素材だ。JR日暮里駅から徒歩5分、下町の風情を残し谷中銀座のシンボルともいえる「夕焼けだんだん」の近くに、竹工芸の専門店「翠屋」がある。近くには週末になればいつも行列ができる有名なかき氷屋があり、観光地として賑わう活気あふれる商店街の入り口にあるのだが、一歩足を踏み入れると竹の魅力を存分に感じることができる名店だ。創業110年を超えるこの店の主は、竹工芸作家の武関翠篁(ぶせきすいこう)さん。1958年に生まれ、祖父・父に学び、東京の竹工芸の歴史を守ってきた。
「いまでも竹から教わることがたくさんあります。竹の種類や生育地によってそれぞれ特徴がありますし、どう手を加えるかで色艶や表情も変わります。竹ってどこまでも曲がる印象がありますよね。でも無理やり曲げると、竹が痛がるんですよ。だから作品を思い浮かべても、そのための竹選びから時間がかかるんです」(武関翠篁さん)
翠屋のすぐ近くのギャラリーには、そんなふうに竹の声を聞きながら作り上げられた翠篁さんの作品が並んでいた。翠篁さんの作品は黒や褐色に色をつけた竹のヒゴを編み、美しく複雑な編組をしている花篭などが多くみられる。
「すごく複雑に編まれているのに、形状としてはとてもシンプルなんですね。竹が無理をしていない感じが伝わってきます」(中田)
海外で人気な竹工芸
作品のアイデアは、自然からヒントを得ることが多いという。
「夜、散歩をしながら月を眺めて、その曲線を描きたいと思ったり。水や光、空気……やっぱり自然がいちばんの先生ですね」
日本の竹工芸は、あまり知られていないが海外コレクターが多く、国内以上に海外で高く評価されている。翠篁さんも文化庁文化交流使としてドイツに派遣された経験もあり、メトロポリタン美術館やスコットランド国立美術館など、海外の美術館や工芸館に作品が収蔵されている、日本を代表する竹工芸家の一人だ。
「海外の美術館などに行くと、日本の150年前の竹工芸が展示してあったりして驚きます。もちろんそういうことはとてもうれしいんですが、もっと日本の若い方々にも興味を持ってもらいたいですね」
まずは散歩がてら翠屋を訪ね、竹工芸の奥深さに触れてみるのもおすすめだ。