漆のオールラウンダー「髹漆」
増村紀一郎さんは、2008年に髹漆(きゅうしつ)で重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。髹漆とは、最も古くからある漆芸技法といわれ、木、竹、布など様々な下地に塗ることができ、仕上げも光沢を出すもの、出さないものと様々な種類がある。一言でいうと”漆のオールラウンダー”とでもいうものだ。
もちろん増村さんの作品も幅が広い。しっとりと落ち着いたもの。光沢を出した華やいだ作品。黒のなかに浮かぶ朱色が目に眩しい作品といったように様々ある。一見すると何の素材かわからない、しかし、とても美しいこの世にたった一つの作品だ。
皮に漆を塗る漆皮技法
さきほど説明したように髹漆は下地を選ばない。そのため、材質の質感を生かした作品を作ることも可能にするのだ。
例えば麻を漆で塗り何枚も重ねて、風合いを出す乾漆(かんしつ)という技法。縄を器の形に巻いて、漆で塗り固める、縄胎(じょうたい)という珍しい技法もある。増村さんはそういった様々な技法を使って作品を作り上げる。
なかでも中田が驚いたのが、動物の皮に漆を塗った漆皮(しっぴ)という技法。
乾燥させた皮を一度水でもどし、木型に密着させる。それを再度乾かし、固めて木型から外す。それに漆塗りを施すのだ。実際に作品を手にとった中田が「これ本当に皮なんですか」と疑問を持つほどに、丈夫なものに仕上がる。
材質を活かして”おもしろい”を
漆皮の歴史は古く、増村さんによれば延喜式にその方法が説明されているというから、奈良時代からあった技法なのだ。
「おもしろい」と中田は言う。「そんなに伝統的な技法だけど、このデザインは現代的。僕はこの技法を知らなかった。でもおもしろい、かっこいいと思う。不思議ですね」
増村さんは「これもおもしろいでしょ」といって、漆塗りをした竹かごを見せてくれた。
「もとのカゴはそのへんで買ったもの。でも竹の質感を活かすように和紙を塗って漆を塗ったんです。これにみかんとか入れてテーブルに置いておくんです」
中田も頷きながら、「質感がいい。おもしろい。じゃあ大きな竹の…」といって、次々とアイデアを出していった。増村さんも「それはいいかも。でも難しい…」といって身を乗り出して話をしてくれた。使う人間と作る人間のコラボレーションというのは、「これおもしろい」から始まるのかもしれない。