世界一薄い絹織物“フェアリー·フェザー”を生み出した「齋栄織物」/福島県川俣町

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イノベーションで川俣シルクの復権へ

長い歴史をもつ絹織物の産地、福島県川俣町(かわまたまち)に今、世界から熱い視線が注がれている。2012年、ものづくり日本大賞で内閣総理大臣賞を受賞した、世界一薄い絹織物「フェアリー・フェザー」を生み出し、川俣シルクのイノベーションに挑み続ける、齋栄織物(さいえいおりもの)を訪ねた。

「東北の絹織物というと、仙台平(せんだいひら)や米沢織(よねざわおり)の名前をよく聞きますが、福島県にも絹織物の産地があるんですね」
工場内を歩きながら、作業風景を見学する中田英寿さん。隣では齋栄織物の常務、齋藤栄太(さいとう・えいた)さんが、生糸が非常に高価だった時代に、川俣では少ない糸で高い価値を生み出す「軽目羽二重(かるめはぶたえ)」の技術が発達したと説明する。
現在、川俣町の織物会社は約20社。この薄手で上質なシルクの生産を受け継いできた。
「欧米の繊維業界では“KAWAMATA”の地名は、軽目羽二重を指す言葉でもあるそうです」
祖父の創業した会社に齋藤さんが入社したのは17年前。当時は、会社の業績もどん底だったと振り返る。

「取引先が限られていて、一社依存率が高い状況でした。関係先が業績不振に陥れば共倒れのおそれがある。裾野を広げたくて、展示会や商談会に積極的に参加し、輸出もアメリカだけでなく、ヨーロッパの販路開拓を始めました」
並行して、自社の強みとなるフラッグシップ商品の開発にも乗り出した。たどり着いたコンセプトは「世界一薄くて軽い先染めの絹織物」。川俣シルクの特長を突き詰めると共に、齋栄織物が得意とする、先染め織物の技術を融合したいと考えたからだ。

ものづくりへの姿勢

まずは市場にある最も細い生糸を使用して試作するも、営業先の反応は薄かった。そこで見直したのが原料の生糸。通常、蚕(かいこ)は4回脱皮して繭(まゆ)になるが、3回しか脱皮していない「三眠蚕(さんみんさん)」の糸を用い、髪の毛のおよそ6分の1という極細糸を開発した。ピンと張っていなければ、指先ですくっても感触がないほど繊細。当初は糸切れの連続だったが、試行錯誤しながら織機(おりき)を改良。2年以上を費やして、量産化にこぎつけた。

「フェアリー・フェザー」と名付けられた商品の一般販売がスタートしたのは、東日本大震災からちょうど1年後のことだ。テレビで特集されるや、メールはパンク状態に。電話の問い合わせは、1日でファイル2冊分にもなった。同年、ものづくり日本大賞やグッドデザイン賞を受賞。ヨーロッパの有名ブランドにも続々採用され、店頭に自社製品が並んだ時は喜びが込み上げたと語る齋藤さん。今後は、家庭で洗えてシワになりにくく、ストレッチ性のあるシルク100%の素材を開発したいと意欲を見せる。

そうした新たなものづくりの姿勢を称賛する一方で、和装の文化もぜひ残してもらいたいと中田さんは期待を寄せる。
「以前、女性は友禅、男性は袴(はかま)をドレスコードに、イベントを開催したのですが、参加者には非常に好評でした。このイベントへの参加をきっかけに着物をあつらえる方も多く、僕も年に1枚は買うようになりました。ものづくりだけでなく、機会をつくること。産地でもバランスよく取り組んで行くことが今後は、大事なのではないかと思います」

ACCESS

齋栄織物株式会社
福島県伊達郡川俣町鶴沢馬場6-1
URL http://saiei-orimono.com/
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