背筋が伸びる駒の音「天童将棋駒」桜井和男さん・桜井亮さん/山形県天童市

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日本最古の将棋駒は平安末期

日本に古来から伝わる娯楽、将棋。その起源は古代インドにあるとされ、実は日本に伝わってきた時期は定かになっていない。いくつかの説があり、早いものでは6世紀頃に伝わったのではないかというものもある。ただ、目に見える証拠としては平安時代後期の“将棋駒”が出土しているそうだ。
そう話してくれたのは、将棋駒を作る職人、桜井和男さんと亮さん親子だ。「奈良の興福寺跡に見つかったものがあったそうです。酒田の遺跡からも平安末期の駒が見つかっていて、いまとあまり変わらない形のものがあったようです」と教えてくれた。

書き駒が伝統的な天童の将棋駒

桜井さんが将棋駒を制作している地は、山形県の天童というところ。将棋が庶民に定着した江戸後期から駒生産が始まり、明治には大阪と並ぶ一大生産地となった。なかでも伝統的なものが、書き駒といわれるもの。駒木地に漆で直接文字を描く将棋駒だ。

将棋駒に使うのは柘植

桜井さんが主に駒の木地として使うのは、江戸指物などに使う柘植。それを冬のあいだに伐採して板状にして保管しておく。木の良い部分を見極めながら切り出して駒形を作り、文字を書いていく。柘植は道管が均一で細工がしやすいのと、女性用の櫛などでもわかるように、手入れをして持つとツヤが出ることから最適と考えられているのだという。
そこに文字を書いていくのだが、天童伝統の書き駒とともに、文字を彫り込んで書くものなどさまざまなものがある。「高級といわれる駒はどんなものなんですか」と中田が聞くと、盛り上げ駒というものを見せてくれた。木地に彫りを入れて、そこに漆を高く盛り上げたものだ。字がより大きく見えて迫力がある。将棋のタイトル戦などはこの盛り上げ駒を使うのだそうだ。

将棋駒の文字を漆で盛り上げる

桜井さんが中田に駒を渡す。文字の彫りと漆で盛り上げるを体験させてもらったが、これがまたやはり「はい」と言われてすぐにできるものではない。将棋の駒といえばだいたいイメージができると思うが、装飾ではなく実際に使う駒はそれほど大きなものではない。そこにまずは彫りを入れる。駒に貼った紙を頼りに彫っていくがなかなかうまくいかない。漆で盛り上げるのも繊細な作業を要する。平滑にした文字の部分からはみ出さないように何とか塗っていく。
作業がひと段落して、中田が「なぜこの仕事を始めたのか」と聞くと「何か自分の手でものを作りたいと思って探していたら、天童に伝わっていた将棋駒に目が行ったんです」と答えてくれた。
日本の原風景にもあるといっていい将棋。軒先のほのぼの娯楽将棋もいいし、タイトル戦の緊張感もいい。そのどちらにも響く、背筋の伸びるような将棋駒の音をいつまでも作り続けてほしい。

ACCESS

将棋駒 桜井和男 桜井亮
天童市蔵増甲1058
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