山形を代表するワイン
山形県上山市にあるワイナリー。樽詰めのワインを輸入し流通、販売を手がけることでワイナリーと称するところもあるが、ここタケダワイナリーは自社農園でぶどうを栽培し、そのぶどうで自社のワインを造る、正真正銘のワイナリーだ。
お話を伺ったのは、代表取締役社長 栽培・醸造責任者の岸平典子さん。日当たりの良い斜面にぶどう栽培の垣根が並ぶ。日本は土壌が豊かなので、ぶどう造りというと棚と呼ばれる栽培方法で作ることが多い。それに対して、ヨーロッパは広い土地を活かして“垣根作り”が多い。
ぶどう作りに重要なのは土地のバランス
ワインのぶどう作りには痩せた土地が向いていると言われるが、岸平さんはそうではないと思うという。「ボルドーで有名なサン=テミリオンはリッチな土壌なんです。問題は土地が痩せているかどうかではなく、全体のバランス。土に微生物がいて、土を耕しているかどうか」だという。
山形のぶどうで作られる山形のワイン
おいしいワインを作るためには素材が重要なのか、それとも発酵や醸造など“造り”の部分が大事なのか。ワイン好きの中田も疑問に思っていたらしく、そのまま岸平さんに質問をしてみた。
「もちろん両方大事です。でもどちらかといえば素材かなと思います。悪いぶどうからいいワインは絶対にできないですから。逆はいくらでもありますが」
その言葉を証明するようにタケダワイナリーでは、15ヘクタールある栽培地を26区画にわけ、1区画20ヶ所を分析して詳細な土壌調査をしている。その結果によりミネラルを足すなどの作業をしている。バイオダイナミック農法も一部取り入れて、さまざまに試行錯誤を重ねながらぶどう作りをしている。
その土地で作られたぶどうで作られるワイン。山形のぶどうで作った、山形のワインだ。タケダワイナリーシリーズとして、有名なのがまさにその山形の地名を冠した「蔵王スターワイン」。バランスのとれ、いくら飲んでもあきないその味が人気を呼んでいる。そのほかにも、トップブランドのシャトー・タケダ、ドメイヌ・タケダなどのシリーズもファンが多い。
おいしいワインには哲学がある
ワインの発酵にはふつう、発酵用の酵母を使うことが多いが、タケダワイナリーではもともとブドウについている酵母で自然発酵させる。野生の酵母を使うということは、もちろん複数の酵母が潜んでいることになる。発酵の段階ごとにより強い酵母が優位になり、幾重にも変化することで、複雑な味の層ができるのだという。発酵用酵母を使うよりも手間がかかるが、それでもこだわるのはおいしさへの追求のため。
ワイン造りの技術には受け継がれてきたものもあり、新しく考え出されたものもあって、さまざまな技術がある。だから日々勉強することで、技術力には間違いなく差が出てくる。「でも」と岸平さんは言う。
「一番大きな差を生むのは哲学的な部分だと感じるんです。目指すものが明確にあるかどうか。こういうワインを作りたいというビジョンがはっきりしている人の作ったワインほど、面白いワイン、そして感動するワインを造れる気がします」