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人の生活に昔から使われていた“錫”
錫は、人類の歴史では初期の時代から使われていた材質である。紀元前1500年ごろのエジプト王朝の遺跡からは錫の水壷が見つかっているし、ヨーロッパではピューターと呼ばれ、古くから銀器の代わりとされていた。
日本でも、宮中でお神酒を注ぐのに錫の器を使うのが古い習わしだった。現在でも宮中では日本酒のことを「おすず」と呼ぶことがあるというが、それはこの習わしに由来している。
そんな錫の器が庶民の間でも使われるようになったのは、江戸時代に入ってから。このころから大阪では錫器の製造、販売がなされていたという。
加工の難しい材料
ここ「大阪浪華錫器」では、今井達昌さんをはじめとした伝統工芸士の方々が腕をふるっている。
錫は非常にやわらかいため、加工が大変難しい。そのため、器などを作る際は機械加工ができず、ほとんどの工程が手作業でおこなわれているのだ。人類初期のころから使われてきた材質ではあるが、だからこそ伝統を受け継いだ職人の技が必要とされるのである。
錫の特性を活かしたタンブラー
現代では、酒器や茶器としての人気に加えて、ビールを飲むときのタンブラーとしても重宝されている。錫はとても熱伝導率の高い金属なので、冷たいものを入れるとすぐにその表面に水滴ができる。つまり、水滴のついた美味そうなビールがすぐに目の前に現れるということなのだ。冷たいものは冷たく、温かいものは温かく。
これからも生活を彩り続ける器である。