自然崇拝や山岳信仰から、修験道へ
大峯山寺(おおみねさんじ)は、今から約1300年前、のちの修験道の開祖となった役行者(えんのぎょうじゃ)が修行をして開かれた霊場である。大峯山系の中心である山上ヶ岳の山頂、標高約1700mにそびえたつ寺院だ。
自然崇拝や山岳信仰は日本古来よりあったものだが、その後に大陸から割ってきた道教や仏教などと習合して、日本独自の修験道へと発展していった。
修験道の信仰の中心で、大峯山寺や金峯山寺(きんぷせんじ)の本尊となっているのが蔵王権現。これは役行者が金峯山で修行を行ったときに感得したものといわれ、仏教の仏でもなければ、神道で祀られる神でもない。インドや中国にも起源をもたない、日本独自の尊像だ。
大峯山寺は、現在でも修験道の根本道場として存在しており、平安初期から続く女人禁制を守り続けている日本唯一の霊場でもある。普段は入山することが許されず、毎年5月3日未明に戸開式(とあけしき)が行われ、9月23日未明に行われる戸閉式(としめしき)までの約5カ月間だけ参詣することができる。
「西覗き」で精進を誓う
旅の一行も入山し、修験道での行を体験することに。17年続けて入山されているという山伏の方にご同行いただき、山道にある一つ一つの要所で法螺貝を吹いては、手を合わせて念仏を唱える。5月中旬にもかかわらず、霧の山道をぬけて、切り立った岩場「鐘掛岩」に着くと、周辺の木々には氷がびっしりとついている。「鐘掛岩」には登るための鎖があるが、ほぼロッククライミング状態だ。この難所を登りきると、有名な行所である「西覗き」に到着する。
「西覗き」では、体に綱を巻き、絶壁の岩場から体を半分のりだして、下界を覗く。その状態で、山伏の方から「これからも精進していきますか?」と問われるが、ここでしっかり返事をしなくては、この行は終わらない。この危険な状況で懺悔をし、精進を誓う。
旅の一行は、さらに山道を登り、無事に「大峯山寺」に到着することができた。