吟醸酒への挑戦
重厚な香り、キリっとした後味、奥深い旨み。どれをとっても、どっしりとした深みを感じさせてくれる酒が、「三宅彦右衛門酒造」の「早瀬浦」。年間生産量が300石という、小さな酒造。しかし、口コミ等で広がり、全国にそのファンがいるという、注目の酒造である。
現在12代目を継いだ三宅範彦さんは、東京農大のご出身。東京農大といえば、全国の蔵元のご子息が集まるところでもある。「三宅彦右衛門酒造」は、もともとは普通酒しか造っていなかったので、三宅さんは同期の友人たちが「これが自分のところの吟醸酒だ」と持ち寄る酒を見て、悔しい思いをしたとか。そこで卒業後、一念発起して始めたのが、吟醸酒などの特定名称酒を造ることだった。
土地の恵みを生かし、正直に造る日本酒
この頃、蔵人と過した時間がとても大切な時間だったと三宅さんは語る。
「あれしたい、これしたいと言う自分によく付き合ってもらいました。今になってみると、その方々に育てていただいたのだと感じます。」
福井は酒米「500万石」の名産地でもある。その米をふんだんに使った、奥行きのある旨みを持った酒は、徐々に人気を集めていった。敷地内に沸く地下水はミネラルが豊富なために、発酵の進みが強く、辛口のキリリとした味に仕上がるのだという。蔵のある土地が漁師町の美浜町ということもあり、昔は漁師さんに「沢山飲めて、次の日に残らないお酒」を求められた。現在はどのような酒造りを目指すのか。
「飲んだときに、蔵人の表情、この酒蔵の環境が思い浮かぶようなお酒を作っていきたいです。それは、正直に造ることでしかできないと思っています。」
海が近い土地や気候は酒の味に影響する。その味を研ぎ澄ますように、「早瀬浦」は造られているのだ。