耕作放棄地からテロワールを感じるワインを生み出す「domaine tetta」/岡山県新見市

「マスカット・オブ・アレキサンドリア」や「ピオーネ」をはじめ生食用ブドウの産地である岡山県。県の北西部に位置する新見市(にいみし)も、古くからブドウ栽培が盛んなエリアであった。その地で、生食用ではなく、ワイン用ブドウの栽培にいち早く着手し、ワイン醸造を手がける「domaine tetta」。代表の高橋竜太さんに話を聞いた。

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異業種からワインの道へ

新見市で生まれ育ち、家業である建設業を営んでいた、高橋竜太さん。

転機となったのは2005年、新見市哲多地区で耕作放棄地となったかつてのブドウ畑を目にしたことだった。その土地の前の生産者は、真面目なスタッフとともに、堅実にブドウ栽培に取り組み、とてもおいしいブドウを作っていた。「それなのに、なぜこうなってしまったのか。よいブドウが育つ畑なのにもったいない…」。

地元の美しい景色として慣れ親しんできたブドウ畑が荒れ果ててしまったことを憂う思い、そしておいしいブドウを育むこの土地を地元の資源としてもう一度生かしたいとの願いから、高橋さんの新たな挑戦がスタートした。土地について調べるなかで、足元に広がるのがフランスのワイン銘醸地であるシャンパーニュ地方やシャブリ地方と同じ、ワイン造りに適した石灰岩土壌であることを知る。「ワイン用のブドウ栽培であれば、地域の資源であるこの土地を生かした再生がかなうはずだ」と、2009年、耕作放棄地再生を目的に「tetta株式会社」を設立。思いをともにする仲間を得て、2010年にはワイン用ブドウの栽培に着手した。

ブドウ栽培はもちろん、農業の経験もゼロ。ワインについての知識もゼロ。「まったくのど素人。無謀でしたよね、今考えると」と、笑いながら当時を振り返る。

創業から数年は、ブドウ栽培のみを手がけ、醸造は山梨県のワイナリーへ委託。夕方まで収穫したブドウをトラックに積み、高橋さん自らが夜通し運転してワイナリーへ持ち込んでいたという。

そうして出来上がったワインには、この土地を預かるという思いから地名である「哲多」=「tetta」と名付けた。

人々が訪れたくなるワイナリーを

2016年には自社醸造をスタート。創業当初からの念願であった、ブドウ栽培から醸造、瓶詰めまでを自社で行なうドメーヌ化を果たす。

ワイナリーを造るにあたって高橋さんが胸に抱いたのは「ワインを生み出す環境や造り手も見てほしい。そのためには、人が足を運びたくなるような建物でなければ」という強い想い。

この想いで誕生したのが、ブドウ畑が広がる山の中に突如現れる、コンクリートのスタイリッシュなワイナリー「domaine tetta」だ。

「ここでワインが生まれる」ことを実感できる場所に

ワインの試飲&販売を行うカフェからは、ガラス越しに醸造場を、テラスに出ればブドウ畑を一望できる。ここでワインが生まれているということを実感できる場所となっている。

ワイナリーのオープン日のことを、高橋さんはこう振り返る。「山のふもとの集落に住むおじいちゃんが、坂道を歩いてワインを買いに来てくれて。地元の人に地元で作ったワインを飲んでもらえることが、本当にうれしかった。やっとここまできた」と。

現在は、国内外からこのワイナリーを目指して、ワイン好きはもちろんのこと、ワインを勉強したいという若者も多く訪れるようになった。

ブドウの力でワインに仕上げていく。

晴天率が高いことから、「晴れの国おかやま」と呼ばれる岡山県。十分な日照時間があるだけではなく、新見市は400mと標高が高く、気温の寒暖差も大きいため、甘みや色づきがよくなるなど、ブドウ栽培に適した条件がそろっている。

加えて、「domaine tetta」では、ブドウ棚の上にビニールカバーを施し、ブドウが直接雨に当たらないようにレインカットした栽培方法により、雨から守ることでなるべく病気を減らし、農薬も減らすよう努力している。そうして、ゆっくりブドウの熟度を上げていく。

ワイン醸造においては、野生酵母を用い、補糖・補酸はしない。酸化防止剤の添加も必要なときに最小限だけ。人工的なものを入れず、「ブドウの力でワインに仕上げていく」ことが、ワイン造りのコンセプトだ。

目指すのは、哲多ならではの味

次なるステップは、「tetta」=「哲多」というこの土地を、ワインでどう表現していくか。土地の利点を生かして日本ならではの品種を栽培し、「哲多」ならではの味わいのワインを作っていきたいと考えている。

ブドウについては、生食用や試験栽培も含め、現在22品種を栽培。代表的な品種は、シャルドネとピノノワール。近年は、ブドウの木が年数を経てきたことに伴い、この土地が持つミネラル感が出てきたと感じるまでに。珍しいところでいえば、生食用の赤ブドウ・安芸クイーンを用いたワインも。トロピカルな味わいで、海外の人からの支持も高いという。

2021年からは、酒類の研究・調査などを行う独立行政法人「酒類総合研究所」と協力して、tettaの栽培醸造の工程内での研究も行ない、酵母がワインにもたらす作用についても知見を深めている。

ドメーヌ化して、9シーズン。やっとここ数年で、「この品種は勝負できる」という手ごたえを得て、品種を絞りこんでいこうとしているところだ。

もう二度とブドウ畑を耕作放棄地に戻さないために

耕作放棄地を再生したい、という思いからスタートした、「domaine tetta」。

創業から約15年。高橋さんは自身の経験から、ワインは単なる飲み物ではなく、さまざまな縁をつなぐツールであることを実感している。そして世界へつながるポテンシャルを秘めていることも。現に「tetta」のワインは、現在、北米やヨーロッパでも流通している。さらに「domaine tetta」に続くように、新見市内には2社のワイナリーが誕生している。

そんな現状を踏まえ今後の展望について尋ねると、「一番の目標は、この地でブドウを栽培し続け、ワインを造り続けること」と、実にシンプルな答えが返ってきた。それにより、地元に雇用を生み出し、この事業を次の世代へとつないでいくことこそ大切だと考えている。この事業の根幹が「耕作放棄地の再生」であることからいっさいぶれない。そのうえで、ブドウが持つ力を引き出し、テロワールが感じられるワインを生み出していく。終わりのない「domaine tetta」の挑戦は続く。

ACCESS

domaine tetta
岡山県新見市哲多町矢戸3136
TEL 0867-96-3658
URL https://tetta.jp
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