匠のたれと、AIでおいしさを追求。創業50年の辛子明太子メーカー「やまや」の挑戦/福岡県糟屋郡

辛子明太子は福岡のグルメを語る上ではずせない存在だ。辛子明太子メーカーは大小200ほどあるといわれるが、1974年に創業した「やまや」(やまやコミュニケーションズ)も福岡でよく知られるメーカーのひとつ。2024年に創業50年を迎えた「やまや」の、次の50年、100年に向けた新しい取り組みを追った。

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創業50年を機に、新本社と工場を移設

2023年に福岡市東区から福岡の北西部にある糟屋郡篠栗町(かすやぐんささぐりまち)に工場と本社を移した「やまや」。福岡市内から車で20分ほどのアクセスの良い高台にあり、緑豊かな篠栗町を一望できる。

この移設は創業50年を記念する一大プロジェクトの一環で、さらにできたての辛子明太子を販売するショップ、絶景レストラン、工場見学、漬け込み体験など、辛子明太子をより深く楽しめる施設「Yamaya Factory Terrace(やまや ファクトリー テラス)も誕生した。「やまや」の新施設は早くも話題となり、地元の人々や観光客で賑わい、篠栗町の活気づくりにも一役買っているという。

伝統の製法と最新技術を掛け合わせる新工場

辛子明太子とは、スケトウダラの魚卵を塩漬けにしてたらこを作り、それを調味液につけたもののことを指す。昭和24(1949)年、福岡・博多の「株式会社ふくや」の創業者である川原俊夫さんが、韓国・釜山で食べた「たらこのキムチ漬け」の味を元に辛子明太子をつくったのがはじまりだ。川原さんは製造法を周囲に教えていたため、福岡ではほかにも味自慢の辛子明太子のメーカーが増加。昭和49(1974)年に創業した「やまや」もそのひとつであった。さらに、昭和50年(1975)年に山陽新幹線が開通したことで、土産需要の高まりを受けて、辛子明太子は「福岡の名物」として全国的に有名になっていった。

そんな「やまや」の辛子明太子づくりは、まずオホーツク海など北方の海で獲れたロシア産やアメリカ産のスケトウダラの魚卵を、セリが行われる釜山やアメリカまで買い付けに行くことから始まる。

辛子明太子に適した粒立ちの良い真子(まこ)と呼ばれる成熟した卵を仕入れたら、工場で独自の製法で塩漬け(塩蔵)して、プチプチッとした食感の良いたらこをつくるのだ。魚卵ではなくたらこになった状態で仕入れる辛子明太子メーカーもある中、「やまや」は、この粒の食感を守るために、魚卵を仕入れてたらこをつくるところから一貫して自社で行っている。

業界初となるAIたらこ選別機を採用

たらこができたら、ここで “AIたらこ選別機”が登場する。約40万枚もの画像から、たらこを血筋や色目などで、業務用、家庭用、贈答用という風に品質のグレードを細かく選別してくれるというから驚きだ。

工場長の谷口大輔さんは「AIを採用したきっかけは、工場で働くベテランスタッフの高齢化など人材不足が深刻な問題になっていたからです」と話す。

「これまでたらこの選別は、熟練の目利きによる言語化できない知識に支えられてきました。しかし問題を打破するために、日本IBMさんと共同開発したAIで目利きを客観的に共有できるデータに落とし込むことに成功したのです。これでベテランスタッフに負担をかけずとも、高い精度を保てるようになり安定した製造が可能になりました」と笑顔を見せる。

この業界では初となるAIグレード選別機の採用。業界をリードする柔軟な姿勢で、新たな挑戦が始まっている。

味の決め手は、匠のたれ×168時間の熟成

一方で、創業より固く守り続けているのが、たらこを漬け込んで辛子明太子にする調味液「匠のたれ」の製法。ピリッと心地よい辛さの唐辛子、濃厚な旨みを加える北海道産の羅臼昆布、華やかな香りが広がる九州産の青柚子と黄柚子。また、水を使うと酸化しやすくなり、どうしても日持ちが短くなってしまうことから、匠のたれには水を一切使わず、かわりに酒を使用している。その風味や甘味が辛子明太子にのることで、独特のまろやかな味わいを生み出す効果もある。

50年という歴史を重ねながら、継ぎ足してきた味わい深いタレを、どんな時代にも黄金比を変えずに「やまや」の味として確立。この匠のたれを168時間、つまり7日間熟成させるのもポイントだ。通常は2〜3日の漬け込むメーカーが多いなか、創業者である山本秀雄さん夫婦がどうやったらおいしくなるか試行錯誤しているうちに、1週間漬け込むと格段においしくなったことがベースとなっている。実際に官能検査をしても、やはり1週間の熟成が味を格上げしていることが証明されている。 

口の中でプチプチっと弾けるような粒感をしっかりと楽しめ、ふわりと柚子や大吟醸が香る味わいこそ「やまや」の真骨頂だ。

こだわりを詰め込んだ辛子明太子「須弥山」と「山本秀波の明太子」

「やまや」といえば、家庭用「できたてめんたい」や贈答用「美味」などがあるが、より一層、味や質にこだわったプレミアムな辛子明太子もある。

通常通り1週間熟成した後に、さらに「喜多屋」の大吟醸「寒山水」と匠のたれに2日間漬け込むという、2度漬けスタイルの「須弥山(280g / 6,480円)」は、なめらかなコクがある上品な味わいで魅了する。

さらに「やまや」の真髄とも言える辛子明太子「山本秀波の明太子(300g / 10,800円)」も。山本秀波とは、創業者である山本秀雄さんが辛子明太子づくりの際の雅号のことだ。息子の結婚式のために、「これ一度きり」と自ら一本ずつ色、ツヤ、卵の詰まり具合などを目で見て確かめながら選んで、秘伝のレシピで漬け込んだ辛子明太子は、「もう一度食べたい」という熱烈なオファーを受け、現在は2代目がその味を受け継ぎ、一子相伝の味を堪能させてくれる。

新ビジョンは「九州から世界へ、やまやスタンダードを」

「やまや」のおいしいものを届けたいという思いは、辛子明太子だけにとどまらず、いまや万能だしパック「うまだし」、もつ鍋、お酒、農作物などが手がけるものは多岐に渡る。さらに全国展開している「博多もつ鍋やまや」をはじめ、アジア、アメリカ、ヨーロッパにも外食事業を展開。

 2023年には、福岡・白金に旗艦店「やまや総本店」がオープン。割烹料理店「膳(ぜん)」とカジュアルな食事・土産処「白金小径(しろがねこみち)」を展開し、九州の食を発信している。

九州の食、そして食文化に向き合い、食の総合プロデュース企業として成長し続けている「やまや」が掲げるのは、「九州から世界へ、やまやスタンダードを」。世界に目を向けた挑戦は、福岡を、そして九州をますます元気にしていくだろう。

ACCESS

やまやコミュニケーションズ
福岡県糟屋郡篠栗町彩り台1-1
TEL 092-652-2208
URL https://maps.app.goo.gl/zn421rHadPQdc1289
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