「竹糖」という貴重なサトウキビ
上品な甘みに、やさしい口溶け――、近年は和菓子のみならず洋菓子に使われることも多い和三盆。普通の砂糖とは違って、それ自体に柔らかい風味があるのが魅力だ。
この和三盆、「竹糖」という在来品種のサトウキビからつくられる。太く背が高い普通のサトウキビとは異なり、その名のとおり細くかよわい竹のような外見。生でかじって汁を味わっても、格別美味しいサトウキビなのだそう。現在、この「竹糖」が栽培されているのは徳島と香川の一部のみ。したがって、和三盆もその地域でしかつくられない、非常に希少な砂糖なのだ。
手作業で和三盆を作り上げる
和三盆づくりには、昔の人がいかに白い砂糖を得ようとしたかの苦労が偲ばれて、なかなか面白い。現在も手作業で和三盆をつくる岡田製糖所では、その先人たちの苦心のほどをあまさず垣間見ることができる。
例えば、「押し舟」という工程では当時の酒蔵の糟絞りの手法が流用され、「水研ぎ」の工程は世界にも例がない日本独自の手法だ。「押し舟」は、煮詰めて攪拌した砂糖の上に石の重石をかけ、糖蜜を絞る工程。「水研ぎ」は、絞った糖蜜に手水(ちょうず)をかけて練り上げる工程。糖蜜を絞るだけでは白くならないため、さらに水を加えて練り上げてまた絞り、これを数回繰り返して白い砂糖をつくる。昔は、この工程が3回だったことから「三盆糖」と呼ばれたのだとか。
甘さだけでなく風味も感じる味わい
1度の研ぎには1日かかり、気温や湿度、砂糖の性質によって水の量や研ぐ時間を変えなければならない。均一な砂糖を手際よく練り上げるにも熟練が必要だ。職人の手の感覚がすべてモノをいうという、大変な世界。この古い手法を守っているのは、現在では限られた製糖所のみである。普通の砂糖では製糖してショ糖分のみにしてしまうが、和三盆はサトウキビの元の成分が多分に残っている。製糖技法としては不完全なのだが、逆にそれが風味の豊かさを生み出しているのだ。
こうしてつくられた和三盆は、干菓子のように和三盆そのものを固めたお菓子になるほど、風味も口溶けもいい。まさに、日本人の知恵が込められているのだ。