農業の現状と料理人「一夜城 Yoroizuka farm」/神奈川県小田原市

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一夜城を背に相模湾を見下ろす畑

ときは戦国時代、場所は神奈川、小田原。秀吉は難攻不落の小田原城攻略のために、石垣山城を築いた。小田原側の北条氏からは見えないように築城をし、一晩で現れたかのように見えたことで、その城を一夜城と呼んだ。
と、歴史小説風に始めてみたが、今回見学に行ったのはその一夜城の丘陵に広がる畑。ここは、パティシエの鎧塚俊彦さんが2011年にオープンした農園とレストランの複合施設「一夜城ヨロイヅカ・ファーム」。
鎧塚さんは、ヨーロッパで料理人として修行をし、パティシエとして活躍した後に日本に戻り、恵比寿の「Toshi Yoroizuka」をはじめとしたお店を次々と成功させている有名パティシエだ。その鎧塚さんが自らの畑を作ることになったのはなぜだろう?

農業と料理人

もともと素材を探すために日本中を旅していた鎧塚さん。その旅で見つけたのは、おいしい素材と“農家の現状”だったという。人手不足、跡継ぎ不足も現状のひとつ。ほかにも作り手に厳しい市場体制もそのひとつ。

「例えばみかん」と鎧塚さんはいう。
「皮に傷が付いただけでも出荷が困難になってしまうんですよ。でも味がそれほど落ちるわけじゃない。だからそれに合わせて、生食用に出荷できないもので、酸味のきついものはジャムなどの加工品にするといったことをやっていかないと農家の状況はますます厳しくなるんです」

そういう現状を憂慮したが、考えているだけでは始まらない。やってみないといけないということで始めたのがこの農園ということなのだ。

地元農家とともに

とはいえ、農園は一夜にしてできるわけではない。スタッフも鎧塚さんも農家としては素人。自分たちだけで、すべてができるわけではないので、地域の人たちが定期的に来て、その方たちに教わりながら作業を進めている。
「同時に、人材育成も大事だと思うんです。僕のところで働くパティシエは100人くらいいます。でも“パティシエ”というのは人間性のごく一部ですよね。農家の方たちと一緒に作業することで、私たち自身、人として得るものがあるのではないかと考えます。」
斜面に広がる畑は、まだ完全に農地としてできあがっているわけではないが、ここにあれを植えたい、もっとこれを作りたいと熱意をもって話してくれた。
現在はレストランも併設されて、たくさんの人が訪れるヨロイヅカ・ファーム。渋谷ヒカリエにも「Yoroizuka farm Tokyo」を出店し、その土地のその季節にしか採れない作物を売り出し、農業の活性化と美味しい料理を結ぶ挑戦を進めている。

ACCESS

一夜城Yoroizuka farm
神奈川県小田原市早川1352-110
URL http://www.grand-patissier.info/ToshiYoroizuka/farm.html
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