「上庄さといも」など在来種ブランドと自社加工で高い付加価値を目指す。「上田農園」/福井県大野市

「上庄さといも」など在来種ブランドと自社加工で高い付加価値を目指す。「上田農園」/福井県大野市

福井県の北東部に位置する大野市の「上庄(かみしょう)さといも」は、小振りで肉質がきめ細かく、固く締まって煮崩れしないモチモチとした食感が特長。他のエリアでは作れないブランド野菜として全国的に知られている。その上庄さといもにはどのような農家の思いが詰まっているのか。

他の土地では作れない「上庄さといも」

「上庄さといも」の栽培地・大野市は岐阜県に接し、北陸でも有数の豪雪地帯だ。霊峰・白山を始めとする1000m級の山々に囲まれた扇状地で、土質は山から流れた土が堆積した水はけのよい砂質となっている。秋から冬にかけては寒暖の差が大きく、この気温差が農作物の甘みを増すと言われ、山々のまろやかな伏流水で育つ米や野菜などの多くは福井県の特産物やその原料となっている。

この大野市の上庄地区において「上庄さといも」を栽培・販売する合同株式会社上田農園は、高齢化で生産量が減少する地域の農業を守るため、2007年に専業農家だった現代表の上田輝司(てるじ)さんが法人として設立した。高齢化で生産量が減少する地域の農業を守るため、代々受け継いできた農業を多角的に展開しようと地元の先陣を切った形だ。現在の従業員は10名、約120ha(東京ドーム約26個分)の農地で、上庄さといも27〜28トンを出荷、ほかにも米、大豆、蕎麦、麦などを作っている。

土地の特徴が味や肉質に出るさといも

ワイン用語のテロワールは、土壌や気候、生育環境を意味する言葉だが、里芋にも当てはまるようだ。サトイモの福井県内の主な産地は大野市を含む奥越地方(福井県北東部、大野盆地と周辺の通称)が中心だ。育てられている地域によって、それぞれに大きさや粘り、味に違いがある。大野市の中でも上庄や下庄(しもしょう)、阪谷など小さなエリアでも、固さや触感などが微妙に違うという。祭りなど地域の行事で持ち寄ったサトイモを大鍋で煮込む際には、「固さが特長の上庄さといもと、違う土地のサトイモたちが混ざるとそれらは煮崩れてしまうのでわかりやすい」と上田さんは笑う。

上庄さといもは2017年、その土地ならではの特産品を保護する国の「地理的表示(GI)保護制度」に登録された。しかし、そういった名称の品種があるわけではなく、元々大野在来の品種を上庄地区の農家が昔から受け継いで育ててきたものだ。それを50年ほど前から、福井県が中心となって優良系統を選抜し「上庄さといも」として維持・管理、ブランド野菜として県内外にPRしてきた。地域に根付いた品種のため、たとえ種芋を持ち出して他の土地で育てても同じ味には育たないという。その希少性から、出荷最盛期の市場では高値で取引されている。

煮込んでも型崩れしない、もっちりとした肉質。

上庄さといもの美味しさを知る地元では、大野の郷土料理・ころ煮(煮っ転がし)にするのが一般的な食べ方だ。栄養の高いぬめりをしっかり食べるため、皮は剥かずにたわしなどで芋に付いた土と外皮をこすって落とし、酒、砂糖、醤油、みりんと少量の水などで水分がなくなるまでじっくり煮込む。仕上げにみりんをまわしかけて照りを出したら完成だ。口に入れるとプツッと皮が弾け、強い甘みと凝縮されたデンプンの旨みがモチモチとした食感とともに楽しめる。他にもコロッケ、おでん、田楽、のっぺい汁などに使われ、大野の冬の食卓を彩る主役の一つとなっている。

連作できない特性を生かして、地域の農業を助ける

上田農園では、雪が溶けだす3月末から4月にかけて保温のために畑を覆うビニールの「マルチ」をして種芋を植え付ける。5月~6月は、マルチの穴を開けてさといもの芽を出させたあと、除草対策を施す。

サトイモは、東南アジア原産のため、蒸し暑い気候の中で育ちスコールのような雨を好むが、水はけも大事だ。水が土に残らないよう畝を高くし、乾燥に気を付けながらかん水などの管理をしっかりすれば、8月頃には1.5mを超える高さに成長する。10月中旬から収穫が始まるが、1株から取れる上庄さといもの量は多くて500g程度。雪が降るまでに収穫を終え、12月下旬頃までに選別し出荷する。

出荷最盛期には、地元のスタッフをパートで雇って人手を確保する。中心となるのは、奥様のてるみさんだ。掘り出した株から1個ずつ手作業で切り離し、乾燥が不十分なもの、キズや腐敗、病害など品質をチェックしていく。「大きい芋はそのまま、皮をむきにくい小さいものは芋洗い機で外皮を落として出荷します」。

高齢化が進む中での専業農家の使命

上庄さといもは、保存ができて栄養価も高いため、冬の間の食材として親しまれてきた。しかし、一度作った畑はなんと7年の間を空けないと、連作障害によって病気になり上手く育たないという。

上田さんは米づくりが難しくなった近所の農家から農地を借り受け、サトイモ、米、大豆、麦と順番に作ることで効率的な栽培を実現している。「全国的に高齢化が進み、放置された田んぼも多い。それを預かって効率よく回すことで、地域活性化にもつながればうれしいです」と上田さんは話す。連作の間に一度田んぼにして水を張り、それを流すことで土に混じった汚れなどがきれいになるという。大豆や麦を作れば土が細かくなり、さらに水はけが良くなるのでサトイモ畑にする前の年には大豆や麦を作ることにしている。



上田さんが手掛ける上庄地区ならではのブランド野菜はもう一つある。この地で伝統的に育てられてきた在来種の「大だるま青大豆」だ。粒は大きめで、まろやかで強い甘みがある。ヘソの部分が黒いので味噌などに使うと見栄えが悪く販売に適さないとされて、地域の中だけで食されてきた。「地元のおばちゃんたちが、おいしいからと内々で残してきた希少価値の高い伝統の在来種なんです」と上田さんは胸を張る。煮豆やみそ、しょうゆ、豆腐に加工してもなかなかの味わいだ。この大だるま青大豆も上庄でしか育たず、しかも手間がかかるので大量生産はできない。上田さんは、減農薬無化学肥料で特別に栽培し、加工することでブランドとしての価値を高めている。

第6次産業に取り組み、地域活性化をめざす

「つくる喜び、食べる幸せが会社の合言葉」と話す上田さん。上庄さといもにさらなる付加価値をつけるため、2009年に「上庄農産加工株式会社」を設立し、米や大豆、サトイモなどの加工販売を始めた。厳密にブランド野菜として管理されている上庄さといもは、出荷の規定が厳しいためどうしてもクズやキズものが出てしまう。上田さんの農園でも毎年600〜700㎏ある。それを地域全体から集め、一定の量を確保して、加工品として売り出したのだ。保存料や化学調味料を使わない「冷凍上庄里いも」や「こだわりの里いもコロッケ」など、家庭で気軽に食べやすい「おかずシリーズ」を開発し、道の駅や卸売、自社WEBサイトで販売している。

高齢化しても女性でも働きやすい環境で生産拡大

ブランド野菜として全国的な人気が定着した上庄さといもだが、農家の高齢化とともに生産量が減っていくのではと上田さんは懸念している。例えば収穫の面では、サトイモは地中に植えられた親芋に子芋孫芋がくっついて増えるため、掘り起こしたままの状態で一度作業場に運び、まず固くて食用にはむかない親芋を簡単な専用の道具を使って離さなければならない。土がついたままの株は重く、畑からトラック、トラックから作業場まで運搬したり、芋から落とした土を再び畑に戻したりするのは手間も時間もかかる作業だ。

上田さんは10年以上前からその問題に気がつき、人の手をかけすぎずにさといもの生産・出荷ができるよう現場の機械化に取り組んできた。いち早くメーカーと協力し畑作りから植え付け、堀り上げまでを機械化し、2020年には人が手をかけなくても掘り出したサトイモを拾い上げ、ネットで包んでトラックに運ぶ収穫機と親芋と子芋を離す株割り機の実証実験を行っている。今後も、GPSを使っての作付けなどIT技術を取り入れ、さらに農家の負担を減らす農法で生産の拡大を目指していくことを計画している。

「大野だけでなく、この国ではどんどん生産者が減っている。収穫までの効率を高めて女性や高齢者でも取り組みやすいスタイルで生産量を上げ、収益も充分に確保できるようにしないと続けていけないからね」。

収穫量が増えればそれを販売するルートも必要で、上田さんは自社サイトやECサイトの販売にも力を入れている。生産するだけでなく収益を得るまでが農業、さらに地域活性化に繋がればなお良しで、それが自分の使命だと語る。

現在、上田農園では長く安心して農業に関わってほしいからと週休二日、有給や育休など福利厚生をしっかり整えている。その効果か働くスタッフは30〜40代が中心だ。その若い世代と一緒に仕事をしながら今後の農業や地域の発展のためのビジョンや思いを伝えることで、大野の農業は在来種とともに守られ育っていくと上田さんは信じている。

ACCESS

合同会社上田農園 
福井県大野市森政領家4-4
TEL 0779-69-1070
URL http://www.uedafarm.net/