金属加工の聖地である新潟県燕市に工房を構え、日々の生活で役立つシンプルな銅製品を作る「富貴堂」。
代々伝わる鎚起(ついき)や鍛金(たんきん)の伝統技法を守りながらも
時流を汲み取り、現代のライフスタイルに合った高い機能美を備える銅製品を生み出し続けています。
新潟に受け継がれる伝統の技
新潟県のほぼ中央に位置する燕市には、江戸時代に始まったとされる伝統工芸、「燕鎚起銅器」の製造技術が脈々と受け継がれている。銅は燕市の西北に位置する弥彦山で開発された間瀬銅山で採掘され、技術についてはもとは仙台から伝わったといわれている。一枚の銅板を焼き鈍(なま)し、それを金鎚や木槌で叩くことでかたちを形成するのが基本的な工程だ。鎚(つち)はたくさんの種類があり、叩く場所や叩き方によって道具を持ち変える。
親子で営む工房「富貴堂」
カンカンカンと工房の外に心地よい音が響く。金属を叩く、リズムのよい鎚の音だ。昭和20年(1945年)に創業した「燕鎚起銅器 富貴堂」の2代目・藤井宏さんは、子どもの頃からずっとこの音を聞いて育った。工房内には、巨大なやかんや古い鎚起銅器の製品が並べられている。「ああいうものは先代が作ったものです。大切にとっておくんですよ。」父親と同じ仕事に就いてもうすぐ50年。今は息子の健さんも隣で鎚を握っている。
プロの仕事道具とは
道具は、先代から受け継いだものを使うことも、あるいは自分で新しく道具を作ることもある。畳の上で細かな振動を感じながら、ひたすら同じペースでカンカンカンカンと叩いていく。銅が変形するときの歪みをいかして、せり上げ、ならし、整える。「地金を締めつけるために叩くんです。叩くと分子が飛んで固くなる」と宏さんは職人ならではの独特の表現をする。叩くことで銅の耐久性が上がり、長く使える日用品になるのだという。
使い込むほどに味が出る道具
鎚起銅器は使い込むほどその艶を増す。そして使う人、使う環境ならではの色を身につける。いいかえれば、自分らしく育てる楽しみのある道具だ。もちろん調理器具としての明確な利点もある。銅の優れた熱伝導率はアルミの約2倍で、鉄の5倍、ステンレスの25倍。熱が全体に通りやすいので調理がスムーズだ。耐食性も高く、殺菌作用もある。完成品はどれもシンプルだが、鈍い光沢と、表面が打ち付けられて出来た、無数の凹凸が作り出すキラキラとした輝きが美しく、なんとも言えない気品が漂う。もはや日用品の枠を超えて美術工芸品としての価値もある。
人気のアイテムとは
富貴堂で特に人気があるのは、湯沸かしや急須、鍋。熱伝導率の良さが調理の効率を上げる事に一役買っており、まず取り入れたいアイテムの代表となっている。一緒に製作にたずさわっている3代目となる健さんは、ドリップポットやサーバーなどコーヒーまわりの商品作りに力をいれいて、日常の中にさりげなく取り入れられるアイテムの発信にも取り組んでいる。伝統工芸品とはいえど、時代による人々の生活様式の変化にも受け入れられやすい商品作りにも励んでいる。
親子とはいえ互いに職人だからこそ、それぞれ得意とするものは異なるが、二人が生み出す作品に共通しているのは、愛着を持って長く使える道具であること。銅製品は取り扱いが難しいイメージもあるようだが、表面に錫の加工を施すので手入れがしやすく、変色もしにくい。長く使ううちに壊れたりメンテナンスが必要になっても、状態に応じて職人の手で修復をすれば、再び使えるようになる。よいものをひとつ手に入れれば、子供や孫の代にまで受け継ぐことができる素晴らしい道具なのだ。そういう意味で、伝統工芸というのは究極のサステナブルなのかもしれない。
受け継がれていくもの
現在は2代目の宏さんと3代目の健さんがまもるこの工房だが、実は宏さんも健さんも一時は外の会社で仕事をしていた時期があったという。伝統工芸の職人として継ぐ決意をする側も、継がせると決意し伝える側も、お互いに覚悟のいることなのだと話す。
「最初は家業を継ぐのが嫌だったんです。でも今は楽しくなっている。祖父がいて、父がいて、この仕事で一生食べていく努力をしようと思えている。それが自分の今の財産です。」と健さん。「継いでくれるのは確かにうれしいことだけれど、職人の世界は厳しいもの、継がせる側にもそれなりの決意がいるものなんですよ」と宏さん。
職人の魂がこもった作品の堅牢さと美しさ、そして一家でつむぐ職人の心意気を感じられる富貴堂の銅器を、ぜひ使ってみてほしい。
代々受け継がれてきた形と共に、用の美しさを追求した製品づくりを心がけています。使うたびに温かみを増す、柔らかでシンプルな形の銅器の魅力をお楽しみください。匠の技から生まれる「富貴堂」の製品を、みなさまの日々を営む道具にしていただけたら嬉しいです。