ガラス工芸作家の小西潮さんと江波冨士子さんの2人が、
米国マサチューセッツ州、チャダムグラスカンパニーでの修業を経て、
1998年に設立したガラス工房。
作品には各作家の個性が色濃く出ているのが特徴です。
鮮やかで魅力的なガラス「ベネチアンガラス」とは
この旅の茨城編でガラス工房SILICAを訪れた際に、ちょうどゲストアーティストとして招かれていた江波冨士子さん。彼女がガラス工芸作家の小西潮さんと共に制作をしている潮工房が神奈川にあると聞き、お邪魔させていただいた。
潮工房で作っているベネチアンガラスとは、イタリア発祥の工芸品で、職人が手作業で作るのが特徴だ。
江波さんが得意としているのがヴェネチアンガラスに伝わる「ムッリーネ」という技法。作り方はまず、様々な色や模様を一本の中に閉じ込めたガラス棒を作る。このガラス棒を金太郎飴のようにこまかくカットしたガラス片がムリーニの素材だ。そのガラス片をモザイクのようにつなぎ合わせて、窯で熱した後に吹くことで形作っていく。
江波さんの作品には、花やハート、蜂の巣の上にミツバチが飛んでいる絵柄のグラスなど、現在の生活でもなじむようなおしゃれなグラスが多い。その色やモチーフはなんともかわいらしく、独特の世界観溢れる作品だ。
「べネチアの技法を使って日本のくらしに合うもの、琴線に触れるガラス作品を作りたい」そう話してくれた。
より繊細な手法で作る「レースグラス」
小西潮さんは大学卒業後に国内外のガラスカンパニーで修行を重ね、アメリカから帰国。その後、江波さんと共にこの潮工房を立ち上げた。
「ここ(三浦半島)は海がすぐそこなので、作業の後に海に潜りに行くこともあります」と、なんともうらやましいお話を伺う。
小西さんの作品はガラスの中に細かな線が幾重にも折り重なり、美しい模様を描く「レースガラス」と呼ばれるものもある。その名のとおりレースを編みこんだような繊細で複雑な線を描きだすのが特徴だ。レースガラスの制作も、ムッリーネと同じようにまず素材となるガラス棒を作るところからはじまる。複数のガラス棒を組み合わせることで、新しいレースの模様が生まれ、小西さんの作品のように彩り豊かな表現を行うことが可能になる。
「チームワークで作るのが私たちの制作スタイルです」と江波さんは話す。潮工房では一人では出来ない作業が多い。作業を見学すると、工房にいるメンバーが力を合わせて、息を合わせて作らなければ完成しないことがよくわかる。しかし、共同作業のなかにも、一人ひとりが自らの作品に特徴を持っている。こうして助け合いながらも、個性を活かすように作品を制作している。
中田も作るのに一苦労、、、
では、中田も体験をということで、レースガラスのコップを作ることに。まず、素材となるガラス棒を作る。七色のガラス棒を組み合わせて溶かし、その塊がついた棒をふたりの人間が持って両端に伸ばすのだ。
小西さんは中田に一本の棒を持たせて、自分も棒を持つ小西さん。「じゃあ、行きましょうか」と作業が始まるが、この時スピードが特に重要だ。「おお、伸びていく」とその姿に感心していた中田だが、だんだんと顔が険しくなっていく。ガラスが伸びるにつれて重くなっていくのだ。「はい、オーケーです。置いてもらっていいですよ」。そう声をかけられたときには、中田の腕はパンパンに…。
苦労の甲斐もあって、ガラス棒にはしっかりと七色の線が螺旋を描いている。
そして、このガラス棒をコップのサイズに合わせて切り、組み合わせる。そのガラス棒を溶かし、吹きながらコップの形を作りだす。細かい修正を繰り返し、虹色のレースが美しいコップが完成した。
できあがりは繊細な美しさなのに、作るのはかなりの力を要する。「ものすごく熱い…」と汗をかきながら、話す中田。潮工房ならではともいえる、ガラス制作の難しさと面白さを体験することができた。
これからもチームとしての力を磨きつつ、日本でも多くの人が使うような個性あるガラスを作る潮工房に大きな期待が高まっている。
ヴェネチアングラスの技法を使いながらも、日本の暮らしに寄り添えるガラス作品を作っています。ガラスの中に見える繊細な線や美しい模様は、世界にたった1つだけのもの。日常の彩りとして、お楽しみください。