梨の生産量日本一を誇る千葉で、200年以上続く老舗農家。
千葉の梨は、栽培面積、収穫量、産出額すべてにおいて日本一。
梨の実は、縁起をかついで「ありの実」とも呼ばれます。
日本一の「梨どころ」千葉
梨と聞くと、鳥取や山梨が思い浮かぶ。しかし、あまり知られてはいないが、面積、収穫量、産出額すべてにおいて日本一なのは千葉県だ。これは「果物のなかで梨が一番好き」という中田も知らなかった事実だ。
そんな千葉県に、200年以上続く老舗農家「与佐ヱ門」がある。梨を作り始めて60年。2010年に開催された「千葉なし味自慢コンテスト」では、農林水産大臣賞(1位)を獲得しており、「幸水」「豊水」「あきづき」「新高」「かおり」「王秋」などなど、ほとんどの種類の品種を栽培している。梨の旬は8~10月。各時期に収穫できる品種をほとんど栽培できるのも200年もの歴史を持つ「与佐ヱ門」だからこそできる技だ。
土にこだわり新天地へ
「うちは、他の梨農園さんとは違った特別な仕立て方でやっているんですよ」と語るのは、8代目の田中総吉さん。
従来の一般的な仕立て方では、経験豊富な人しか剪定・誘引ができなかったが、先代の考案した「H型4本主枝」という方法だと、パートさんなどでも作業が可能なのだという。
「うちは住居が市川にありまして、ここまで来るのに往復3時間かかるんです。ですから、なるべく作業にかかる労力を短縮して、よりいいものを作るためにこうした仕立て方をしています」
「市川も梨で有名ですよね? なぜ市川ではなく、こちらの場所に?」
「市川は、200年以上も梨栽培の歴史がある千葉県発祥の地ではあるんですが、その反面、都心に近く、住宅が多いんですね。農業に一番大切なのは土づくりですが、市川では堆肥が作れない。臭いやほこり、それから機械の音も近隣の方の迷惑になってしまう。だから、思い切ってこちらの場所に農園を構えました」
先代のころから20年かけて富里の畑の土壌改良を進め、ようやく美味しい梨ができるようになってきたそうだ。
中田も大絶賛する極上の梨
その富里の畑で、田中さんに選んでもらった「豊水」を木からもいで、その場で皮ごといただいた。
「んまい!!」
梨を噛むたびに果汁が溢れて地面に滴り落ちる。
豊水は割合、酸味が強いという特徴をもつ品種だというが、この梨は酸味が強くなく、肉質がやわらかくて瑞々しい。こだわり抜いた土によって、甘さと栄養をたっぷりに含んでいるのだ。これには中田も「これまで食べたことのない味」と大絶賛。
「与佐ヱ門」という屋号を掲げて
これだけ伝統がある農家さんだと、すんなり家業を継ごうと思いました?」
「いやぁ、僕ね、虫がまだ触れないんです(笑)。もともと農業も大嫌いで、子どものころも畑にほとんど入ったことがなくて」と笑う田中さん。手伝いといえばとにかく逃げ回っていたという。
「たまたま縁があって農薬メーカーに勤めることになりまして、生産者の方たちを回っていろんな話をしたり、自分の家ではまったくしなかったお手伝いをしていくなかで、“農業っていいな”と思ったんです。それで自分を振り返ってみると、自分の家のことを何も知らない。親父とお袋がやってきた仕事を掘り下げて見たこともなかった」そこで、考えに考えて家を継ぐことにしたという。
それ以後、屋号である「与佐ヱ門」を農園の名前として復活させ、情報を自ら発信、「与佐ヱ門の梨」というブランドの確立に心血を注いできたのだ。
「美味しさの答えは出ていません。きっと、最後の最後まで答えは出ないのかなと思いつつ、梨を作っているんです」
梨屋 与佐ヱ門では、梨の「旬」にもこだわっています。早めに収穫して早めの出荷を行うということはせず、品種ごとに「食べ頃」のサインを見極め、それに合わせて収穫を行っています。梨の一番おいしい状態を食べていただきたいという思いから、「旬」にこだわるのです。