大きさではない、味にこだわる「天使音マスクメロン」
静岡県では大正末期から温室メロンの栽培を始め、今では日本一の産地。高級フルーツの代表ともいえるマスクメロンは、1玉1万円を超える高値で取り引きされ、高級料理店の定番デザートとしても高い人気を誇ってきた。そんな静岡で近年人気を高めている話題のメロンが、浜松市のヒノン農業株式会社が手掛ける「天使音(あまね)マスクメロン」だ。
「実は、近年のメロンの栽培技術は、味や品質よりもいかに大きな果実を作るかということに重点が置かれていました。そのために成長促進剤などを使ったりするのですが、人気は上がらず、生産者の数もどんどん減っています。私はこれから先の未来の農業を考え、基本に立ち返って、小さくてもいいから、安全性や味にこだわっていきたいと思い、『天使音マスクメロン』を開発したんです」(ヒノン農業株式会社・影山雅也社長)
開発のベースになったのは「クリームメロン」、と呼ばれたマスクメロンの存在だった。母親に「ヒーローオブロッキンジ」という、英国由来の白肉系メロンを持つメロンで味と香りは突出していたが、栽培が難しく、果実が小ぶりだったために、忘れ去られていったメロンだ。「ヒーローオブロッキンジ」は、ある文献によると、英国女王エリザベス2世の戴冠式に出席するために、イギリスを訪れていた秩父宮妃殿下が、付き人に命じ、なんとかとか持ち帰った種だったことが記されていた。それをたよりに、保存されている「ヒーローオブロッキンジ」の種を探しだし、開発にこぎ着けた。この種を緑肉系(アールスフェボリット)の種とかけあわせ改良を繰り返し、そうしてたどり着いたのが、現代のクリームメロン「天使音マスクメロン」だ。
高級料理店が注文するマスクメロン
百聞は一見にしかず。影山社長が天使音メロンに包丁をいれる。野外にもかかわらず、メロンの甘い香りが広がり、食欲を刺激する。確かにやや小ぶりな気もするが、食べてみると、やさしい甘みが口いっぱいに広がり、思わず笑顔になる。全国の高級料理店がこぞって注文する理由もよくわかる。
「いつも食べているメロンとは一味違う、濃厚な美味しさですね」(中田)
それもそのはず、ヒノン農業株式会社の温室では、通常樹上で行われる完熟に、さらに手をかけた、“ダブル熟成”を行っているという。「ダブル完熟収穫技術」と名づけられ、特許を取得している。果実に水分ストレスを与え、果肉に濃厚な味と香りを、凝縮していく技術である。この技法により、糖度は普通の収穫方法より1度以上上がり、香気成分は、温室メロンの数十倍にもなる。温室内を見学しながら、成長段階によってどのような作業を行うか説明してもらうと、水やりから温度管理、さらには熟成の見極めまで、このメロンにどれだけの手間ひま、技術がかけられているかが理解できた。甘さだけではない、「旨味」「コク」「香り」までもが追求された究極のメロンは、日本の職人気質が生み出した逸品だ。