天然氷を育てる。「四代目氷屋徳次郎 山本雄一郎」/栃木県日光市

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ふわふわのかき氷。

「どうぞ、召し上がってください」と目の前に置かれたかき氷。スプーンをいれると”さくっ”ではなく、”ふわっ”とした感触が伝わってくる。中田は氷を口に入れると「わたあめみたい」と感想をもらした。 「製氷機で作った氷じゃなくて、天然の氷を使うと、こういうふうに柔らかく作っても溶けないんですよ」と話すのは「四代目氷屋徳次郎」の山本雄一郎さん。このふわふわのかき氷は雑誌やテレビも特集され、夏になると行列ができるほどの人気だという。 「四代目氷屋徳次郎」という名前の通り、こちらは天然氷を製造して販売する氷屋さんなのである。山からの伏流水を池に流し込み、機械ではなく自然の寒さで水を凍らせる天然氷は、ミネラルが多いためほんのりと甘い。そして最大の特徴はその透明さ。実際に見せてもらうと、製氷機で作ったような白さがまったくなく、向こうが透けて見えるほど。

”日輪”を刻む氷。

「天然氷はこういう線が入るんですよ」と山本さんが指さしてくれた。たしかに線がある。これは何かというと、木でいうところの年輪。「これは氷の層で、夜から朝にかけて凍った印。次の線が翌日の夜に凍った部分なんです」。年輪ならぬ日輪が刻まれる。天然といっても放っておけばできるものではない。毎日毎日、手をかけて育てていくものなのだ。

天然氷作り一番の大敵は、雪。一度張った氷の上に雪が降ると、布団をかぶったような状態になり、冷気が行き届かずにきれいな氷ができなくなってしまうそう。だから雪が降ると”雪かき”をする。大きな製氷池の端から端までをせっせとかいていく。雪のシーズンになると、気が気でないという。 見学当日は、薄く張った氷を割って流し出す作業をしていた。こうすることで、池の不純物を取り除いて、きれいな水を作るという。中田もお手伝いをさせてもらったが、これが重労働。長い引っかき棒のようなもので氷を引き寄せ、割っていく。こうした作業の繰り返しで丁寧に氷を”育てていく”のだ。

熱意が人を動かす。

現在、天然氷を製造する会社は全国にも数軒しかない。古くから製氷業の盛んであった日光にも3軒しか残っていない。実は氷屋徳次郎も、先代の吉新さんが高齢のために2006年を最後に製造を打ち切ろうとしていた。しかし、日光の文化を残したいと強く思った山本さんが経営を引き継ぎたいと申し出たのだという。

見学の最後に顔を見せてくれた吉新さんは当時のことを振り返って「この仕事はとても無理だからやめたほうがいいって断ったんですよ」と言う。 「でも最終的には継がせた。その理由は?」と中田が質問すると、吉新さんは「んー、まあ、しつこかったからね」と笑っていた。山本さんは何度断られても諦めることなく、何度も吉新さんのもとを訪ねたという。

日光の文化を残したいという山本さんの思い。でも半端な気持ちでは仕事を継ぐことは無理という、職人としての吉新さんの気持ち。なかなか交わることのなかった思いをひとつにしたのは”熱意”だった。

ACCESS

四代目氷屋徳次郎(日光霧降高原 チロリン村内)
栃木県日光市霧降1535-4
URL http://chirorin.dohome.net/
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