茨城を代表する絹織物「結城紬」
一時間ほど煮た繭から、タライの中で熟練のおばあちゃんが真綿を作る。そこから糸を引き出し“つむぐ”。そんな昔ながらの製法を用いた結城紬が、茨城県西部の結城市で今でも受け継がれている。茨城を代表する絹織物でもあり、ユネスコ無形文化遺産にも認定された。
「真綿から細く糸を引き出したら、自分の唾液で撚り合わせていくんです。唾液に含まれているタンパク質が細い一本一本の繊維を束にすることで1本の糸になっていきます」
そう語る森肇さんは、結城紬の伝統を守る職人のひとり。工房には「地機(じばた)」とよばれる織機や、織り上げる前の糸に直接色を染める為の道具、絣くくりの台。結城紬は先染めと言われる技法で柄を表現しており、織る前の縦糸と横糸一本一本をあらかじめ計算した上で染め上げ、縦と横の一本一本の模様が織り合わせられることによって草花や風景が織りだされるのだ。織る前の絹糸に模様を付ける為に、模様として色を残したい所に染料が染み込まないよう木綿の糸で絹糸をくくった後に染め、絣くくりの技法で染め上げられた糸は、織り上げられる前であるのに、糸が並んでいる姿自体が美しく、中田も「これを展示したらかっこよいですね」と話していた。
結城紬のクオリティは世界に知られており、これまでも有名ブランドとのコラボレーションで、スーツやインテリアの生地として採用されてきた。明治40年の創業以来、本場結城紬を守り続ける奥順株式会社の5代目、奥澤順之社長がその特徴を語る。
「結城紬は、真綿から手紡ぎした糸を使うことと、地機(じばた)で織るのが特徴です。地機は一般的な織り機よりも低い位置で作業します。独特の形状や人が全身をつかって織る様子から『鶴の恩返し』のモデルになったとも言われています。熟練の職人が真綿から糸を紡ぎ、40以上の工程をかけて作るため、1反できあがるまでは最低でも5ヶ月、柄にこだわったものは数年かかることもあります」
結城紬を伝えるミュージアム
大きな真綿から細い糸をたぐり出し、手でつむぐ。糸を取るだけでも三カ月の時を用するとは確かに気が遠くなるくらいの作業だ。
「繭はお蚕様の生命を守る家。紫外線を通さず、温度や湿度を適度に保ち、さらに防菌効果もあります。この効果は結城紬にも受け継がれていて、着ている時の心地よさはそれに由来していると思います」(奥澤社長)
染色も同様に時間のかかる作業だ。糸の束にさらに糸をくくりつけ、“染まらない部分”を模様として作っていく。数ミリごとに糸を束ね、しばる糸の太さを変えながら模様を糸に写し取っていく。しばる強さを常に一定にするように、気をつけなければならない。森さんはこの作業を1日2000回以上繰り返すこともあるという。とほうもない時間をかけてつくられる軽やかでしなやかな結城紬。その生地で作られた着物に包まれたら、どれほど心地いいのか。中田が新しい和服をつくるとしたら結城紬が最有力候補になりそうだ。
奥順では、産地の機屋と連携しながら製造問屋として結城紬の企画やデザイン・販売流通を請け負っているだけでなく、2006年には資料館を含む総合ミュージアム「つむぎの館」を敷地内にオープン。結城紬の歴史や高度な技術を伝えるための資料館や、従来のきもの生地に加えて、ストールや小物など、新しい商品の開発にも積極的に取り組み、販売するショップや染織体験ができる施設など、総合文化施設として結城紬の価値を伝えている。