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風が吹けば動き出しそうなやさしい色を描き出す、「布染め」の技法
もともと佐賀県の有田で有田焼を学んだ陶芸家 上瀧勝治(うわたき)さん。
現在では日本工芸展にも入選する作家として知られるが、作品としての焼物を作り出したのは31歳のとき。
「そのころね、神谷先生のところにいったんです。そこで“これが焼物だ”っていう作品を見て、自分でもやってみたいと思って始めたんです」
上瀧さんの作る磁器には、全国のどこにもない、赤や紫のふわりとした中間色が浮かび上がっている。
そのやさしさが、上瀧作品のもっとも大きな特徴だ。
その色を出すため、上瀧さんは「布染め」という技法を使う。
普通は筆で色を付けていくものだが、上瀧さんは素焼きの上に布を置き、筆で色を定着させるのだ。
風が吹けば動き出しそうなくらい、やさしい風合いの模様になるのはそのためである。
有田の感覚と、関東の感覚が交わる
有田の緊張感のある磁器に、ふわりとした色が浮かぶ。
「なぜこの赤紫にこだわったんですか?」
中田の質問に、上瀧さんは「関東の感覚ですかね」と答える。
「有田のある九州は、もっと原色に近い色を好みますよね。佐倉に移ってきてから、ふんわりとしたやさしい色を使いたいと思ったんです。それからこの色を出すまでに30年かかりました。やっと、という思いですね。この温かみが私の焼物の原点ですから」
上瀧さんの作品にはスケールの大きなものが多い。
「大きい磁器は有田のロマンですから、これからも大きい作品を作り続けますよ」
姿の大きさとやわらかな色。
包み込むような優しさがどの作品からも漂っていた。