首都圏を洪水から守る要「首都圏外郭放水路」

首都圏を洪水から守る要
「首都圏外郭放水路」

埼玉県春日部市にある首都圏外郭放水路は、外から見ると、ただの江戸川沿いの建物のしかすぎない。だが、その地下には約50メートルには延長約6.3kmの放水路が隠されている。施設の空き容量は最大67万㎥で、中川、倉松川、大落古利根川、18号水路、幸松川といった付近を流れる中小5つの河川の水を地下に取りこみ江戸川に放出するための、世界最大級の地下放水路だ。

巨大な柱が立ち並ぶ神殿のようなつくりから「映画『翔んで埼玉』では、埼玉解放を目指す人々が集結するシーンでも使われています。2018年8月より施設内の見学ツアーを始めたんですが、結構人気になっています」(江戸川河川事務所 荒井満副所長:2018年)

長い階段を降りると、そこに広がるのは無数の小判型の柱が並ぶ広大な空間。多少の湿度はあるが、下水的な匂いはまるでない。外は蒸し暑かったが、地下のこの空間はひんやりとして気持ちいい。ここが全長177m、幅78m、高さ18mの巨大調圧水槽、通称“地下神殿”だ。今回のように水がないときには、特撮映画の戦闘シーンの撮影などによく使われていたのだという(現在は撮影の受け入れ休止中)。このような空間、景色は、他にはない。

第1立坑から第5立坑まで、全部で5本ある立坑は、深さは約70m、内径約30m、ここから河川の洪水を取り込み、コントロールしながら調圧水槽へ流していくというシステムだ。

首都圏外郭放水路がある埼玉県春日部市周辺は、東京への通勤圏内として人気が高く人口の多いエリアであったが、地盤が低いことから、かつては大雨のたびに浸水を起こしていたという。治水整備を目的に首都圏外郭放水路の基本構想が策定されたのは昭和60年代。調査・設計や用地買収を経たのちの平成5年から工事に着手し、平成14年には部分的な供用をスタートさせて、平成18年に完成した。

令和元年10月に各地の河川で氾濫・堤防の決壊を起こし大きな被害をもたらした台風19号では、首都圏外郭放水路が稼働しながら中小河川からの洪水の引き込みと江戸川へ排水したことで、周辺地域の被害を低減させ、その活躍が多くの報道でも取り上げられた。

このような施設は、世界でも珍しく海外からの視察も多いそう。首都圏外郭放水路の役割をもっと深く知ってもらうための見学会も行われており、人気の地下神殿「調圧水槽」や、これまでは非公開だった作業用通路を歩き、立坑内の階段を途中まで降りていくことなどができる(内容はコースによる、2020年12月現在ポンプコースは休止中)。案内は日本語のみだが、巨大水槽に水が貯まる様子を疑似体験できるアプリや外国人観光客に対応した多言語の音声ガイドアプリも用意されている。中田英寿も過去に海外からの友人をサプライズで連れてきたことがあるとか。この地下放水路が周辺の人々の生活を守っていることはいうまでもない。機能を追求した結果、美しく神秘的な空間が生まれた。ここもまた機能美を持った空間ということができるだろう。

ACCESS

国土交通省江戸川河川事務所 首都圏外郭放水路管理支所・庄和排水機場
〒344-0111 埼玉県春日部市上金崎720
TEL 048-747-0281(見学会受付)
URL https://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/edogawa00233.html