ちがいが分かるブランドもやし
1本食べれば、ちがいがわかる。埼玉県・深谷市の「深谷のもやし屋」飯塚商店の飯塚雅俊さんが作ったもやしは、旨みがしっかりとしていて、ほんのり甘く、野菜らしい香りはあるが、独特のくさみがない。さすが都内の有名百貨店でも扱われているブランドもやし。一般的なもやしの10倍ほどの高値でも飛ぶように売れているのだという。
物価の優等生もやし
「どんなに物価が上がっても価格が上がらないことから、もやしは物価の優等生と呼ばれています。でもわたしから言わせれば逆。物価が上がっても価格を上げることができない劣等生なんです」
「もやし」という植物があるわけではない。もやしとは、太陽の光が届かない暗室で土を使わない水耕栽培により植物の芽を発芽させたもののことを指しており、「緑豆」「大豆」「黒豆」など、何の種を使っているかによって種類さまざまある。もやしは光をあてると光合成によって養分を消費してしまうため、栄養をなるべく失わないように遮光して育てられるが、安くて栄養価が高いということで人気の食材。だが現在、スーパーなどで販売されているもやしのほとんどは、コンピューター制御された工場で自動的に作られている“工業製品”。価格は100g15~20円程度で、「この価格でやっていけるのは大手だけ。中小の業者はどんどん潰れている」。そんななか飯塚さんは、昔ながらの手間ひまかけたもやし作りに励み、もやし本来の味を伝え、高い付加価値を維持している。
すべてを手作業で行う飯塚商店
飯塚商店の“畑”は、体育館ほどの建物のなか。温度、湿度、光をこまめに管理している室内には大きな水槽のような容器が並び、そのなかでもやしたちが育てられている。まずは30~40度ほどのお湯に豆を漬けて、そのまま6時間ほど待つ。
「豆を触ってみてください。温かいでしょ。発芽するときに熱がでるんです。豆も生き物だなと思いませんか。だから丁寧に育てれば、おいしくなってくれるんです。うちではきれいな地下水を使って、6日間かけて健康なもやしを育てています」発芽しはじめたもやしの熱は高すぎても低すぎてもいけない。ちょうどよい温度に管理するのも大切で注意が必要な作業だ。
手間暇をかけた水やりや温度管理だけでなく、飯塚さんのところでは、もやしの痛みを最小限にするため、収穫から洗い、袋詰めまで、作業のすべてを手作業で行っている。出荷の多い時期には袋詰めの作業を終えるのが深夜になることもあるが、翌日は早朝から配達に出ることも。飯塚さんの「深谷もやし」への情熱は尽きることがない。
ミャンマー産の黒豆を使う飯塚商店
もやしのほとんどは中国産の緑豆をつかっている。だが飯塚商店では、ミャンマー産の黒豆(ブラックマッペ)をつかう。緑豆に比べて細く長いが、味はしっかりと力強い。熱を加えても崩れにくくシャキシャキとした食感が残ることからも、鍋や炒め物、味噌汁など、あらゆる料理に適している。驚いたことに、飯塚さんのもやしには同じくらいの長さの根がついているが、この根からいい出汁がとれるという。普通のもやしと比べて価格が10倍といっても200円程度。それで驚きの味を体験できるのだから、見かけたらすぐに買うべきだ。決して侮ることのできないもやしの美味しさを知ることができるだろう。