人形に愛情を
「僕はね、人形をケースの中に飾っておくのがかわいそうなんです。僕たちと同じ空気を吸っていてほしいなって思うんです」
そう優しげに語るのは、人形の街・岩槻で木目込人形を作る人形作家・二代目 石川潤平さんだ。父親でもある先代は埼玉県指定無形文化財に認定された人形界の第一人者。その先代から手ほどきを受け、現在は石川潤平の名も継いだ。ひな人形、五月人形のみならず、人の温かさをかたどった豊かな表情の人形を作り出している。
日本一の人形製造量の埼玉県でも珍しい
人形というのは普通、頭部分を作る頭師、胴体部分を作る胴柄師など、髪の毛から顔、胴、衣装、小物をすべて分業で作ることが多い。もともと先代も頭師だったという。
「でも、人形は部品じゃいけないって思ったんです。お顔から手足まで、胴体もすべて自分で作ってあげたい」と石川さんは思ったという。
それから彫刻の先生についてデッサンを習うなどして、現在では石川潤平工房の中で全ての工程を作り上げている数少ない製造メーカーになったそうだ。日本一の人形の製造量を誇る埼玉県の中でも、人形一体をすべて一工房で仕上げることは大変稀なことなのだ。
小さな命を吹き込む
石川さんが作るのは木目込人形(きめこみにんぎょう)というもの。桐の粉をしょうふ糊で固めた桐塑(とうそ)で作った型に、筋彫りをし、そこに布地をきめ込んで(挟んで着付けて)作る人形だ。お顔は白雲土(粘土の一種)を焼きしめたものに胡粉を塗り。そして細い筆で目などを書き入れていく。徐々に人形が表情を持ち始める。
工房には、中田のために用意してくれた一体の人形があった。それに石川さんの手ほどきを受けながら、中田自身が着物を着付けていく。人形が、ぐっと命を持ったように変化する。そこでもやはり石川さんは「ケースから出して飾ってあげてくれたらうれしい」と言った。
雛祭りや端午の節句に代表するように、日本には大切な人を想い人形を飾る習慣が残る。その人形に込める、作り手の作業の細やかさは、人形という姿に小さな命を吹き込むようであった。