茶の香りをかぎ、味わいを確かめ、その産地や品種を見極める
「拝見に掛ける」あるいは「内質審査」と呼ばれる鑑定法だ。審査茶碗に計量した茶葉を入れ、熱湯を用いることで茶葉の形態・滋味・水色・香気と全ての個性を暴き観る。日本に十数人しかいない“茶師十段”は、その道の達人。
彼らは、地域や年ごとに異なる個性を特定し、その活かし方をデザインする。顧客へのアドバイス・生産地へのフィードバックも怠らない。この数少ない茶師十段が東京にもいる。下北沢の「しもきた茶苑 大山」。昭和45年から続くこの店の茶師・大山拓朗さんは、平成15年に十段に認定された。
「家が日本茶の専門店でしたが、子どものころはあまりお茶が好きではありませんでした。ぞんざいに扱われたお茶は子どもの口にやさしくはなかった。茶葉の個性や特長を知り、それを伸ばすことができれば。また子ども目線に合わせた適切な淹れ方が伴えば飲みやすいお茶をつくることができる。どんな人が、どんなときに、どんな気持ちで飲むのか。そういうことを考えながら茶をつくっていくのがとても楽しいです」
同じ茶葉でも淹れる湯の温度が5度変わると、香りや味わいががらりと変わるという。
「お茶は熱湯で淹れてはいけないと言われますが、品質の備わった茶葉なら熱湯でも不味くはならない。たとえば、これから仕事を頑張ろうというときなら
熱めの湯温が向いているし、逆にリラックスしたいときはぬるめがマッチしている。私が考えるいいお茶の条件は、飲み飽きしないこと。俄かには特段の個性を見出せなくても飲み疲れることもない。また、冷めても旨みを感じるのは上質の証です」
茶師ができるのは、「茶葉の可能性を引き出すこと」。
「いちばん有名なやぶきたという品種でもまだ十分な可能性を引き出せていないような気がします。もっとおいしくやぶきたを楽しむことができるはず」
下北沢に茶園はない。でもそこには全国の産地からよりすぐりの茶が集まる。その茶葉を十段が見極め合組したとき、「多くの人を魅了し、支持される」お茶が生まれるのだ。