現地でしか知り得ない発見こそ旅の醍醐味
12年前、29歳でサッカー選手として現役を引退。中田英寿さんの人生の第二幕は、世界を旅することから始まった。90カ国以上を訪ね歩くうち、日本人でありながら日本を知らないことに気づき、平成21年からは47都道府県を巡る旅をスタート。約7年かけて日本全国に足を運んだ後は、十分な魅力を持ちながらもスポットライトのあたりにくい、日本の文化の普及・発展のため、各地を飛び回っている。なかでも、日本有数の酒どころである福島には、数え切れないほど足を運んできた。
「浜通り、中通り、会津地方と、文化圏が3つも存在し、それぞれが地域色豊かな文化を形成している。これは、他ではなかなか見られない、福島の特色だと思います」全国3番目の広大な土地に広がる、変化に富んだ風土によって、多様な文化を形成してきた福島県は、訪れるたびに新たな発見があると語る。これまでも、日本各地の伝統工芸や日本酒の魅力を、多くの人に紹介してきた中田さん。自身が仕掛ける日本酒イベント「CRAFT SAKE WEEK」では今年は、「奥会津金山 天然炭酸の水」を和らぎ水として採用している。
福島県・会津地方の西、新潟県境に位置する、大沼郡金山町。只見川を抱く渓谷の町に湧く水は、軟水にして微炭酸という非常に珍しい特徴を持つ。明治時代にはヨーロッパに輸出されるほどの人気を博すも、輸送の難しさから製造は中止に。だが、地元住民によって大切に守られてきた水は、約百年の時を経て見事に復活を遂げた。
多様な文化が息づく、ふくしまの魅力を再発見
「奥会津金山 天然炭酸の水」を製造するのは、埼玉県に本社を置く株式会社ハーベスだ。取引先から金山町の炭酸水の評判を聞いた前田知憲社長は、現地を視察するや商品化を決意。地元の協力の下、新たに井戸を掘削して工場を構え、平成16年から販売を開始した。
中田さんがその存在を知ったのは、今から7〜8年前。日本では珍しい天然の炭酸水とあって、強く印象に残ったと振り返る。
「今でこそ日本でも炭酸水は日常的に飲まれるようになりましたが、当時はまだ今ほど炭酸水文化は根づいていませんでした。天然炭酸水としては先駆けだったのではないのでしょうか」
その評判は徐々に広まり、ミシュランガイドにも掲載の日本料理店やフランス料理店で採用されている。炭酸水でありながら、きめ細かくなめらかな口当たりは、和らぎ水としても最適。日本酒の繊細な風味を際立たせてくれる。
前田社長から、金山町の工場見学に誘われた中田さん。近くに炭酸の温泉もあると聞いて、興味を引かれた様子だ。来月からはふくしま再発見の旅も本格始動。知られざる魅力を掘り起こしていきたいと意気込む。
「福島は食材、お酒、伝統工芸など、素晴らしい素材に恵まれながらも、県民でさえ実は知らないというものがたくさん存在すると思います。また、地元では当たり前のことも、見る角度によっては新たな発見になると思うので、新鮮な情報を掘り起こしていきたいです」