山中漆器に新風を吹き込む人間国宝
川北工房の作品を見てから、一度伺いたかったという中田を、工房を親子で営む川北良造さんと川北浩彦さんが出迎えてくれた。川北工房ではろくろを使った挽物で、お椀やお盆など円形の器ものを制作している。父の良造さんは先代から木工の挽物の技法を受け継ぎ、匠の技術を持つ人間国宝である。木の魅力を最大限に生かした作品づくりが得意で、1mm中に8本の線を引くという技に卓越性が光る。加飾の面では、加賀市で生産される山中漆器特有のさまざまな筋挽きを自在に取り入れ、縮れ象嵌(ぞうがん)、べっ甲、珊瑚(さんご)によって華やかさを加味するなど豊かな表現方法で、山中漆器に新風を吹き込んでいる。
生活の中で活かされる漆器を
工房の展示室でまっ先に目を引いたのは、象嵌によって大きく花柄が描かれた漆器のお盆。中田は興味深そうに拝見しながら、「漆器というと器だけれど、過去に川北さんの作品を見てから漆器のお盆の素晴らしさに気付いた」と称賛した。川北良造さんは、「私たちの作るものは飾るものではなくて、まずは用にかなうもの。“これはこういう用途で”と生活の中で活かされることが主たる目的となり、このお盆は仏様やお人形を置く用かと、想像しながら作った」と話してくれた。
お椀作りを体験させてもらう
中田は浩彦さんに習いながら、木工芸のお椀作りを体験させてもらった。ろくろにつけられた木材に刃物を当てて、形を作る作業だ。刃物を右脇に挟み、刃先を木材に当て、重心を動かしながら削っていく。「やってみないと分からないものだ」と苦闘するも、慣れてくると道具を使いこなし、スムーズに作業は進んでいった。「まずは削ることから、毎日毎日やっていかないとできない」と浩彦さん。日々の努力の積み重ねが感じられるアドバイスであった。