温かな雰囲気のあけび蔓細工
津軽地方の伝統工芸といえば大名の令によって生まれた津軽塗があるが、それとは反対に庶民の生活のなかから生まれた「生活のため」の民芸品がある。それがあけび蔓細工だ。手提げバッグやかご、花器など生活に密着したものが多い。蔓の素朴な色合いと風合いがなんともいえない温かさを醸し出す民芸品だ。だからバッグなどは使わないときにそっと部屋に置いておくだけでも、部屋の空気を柔らかくしてくれる。今回は伝統工芸士として活躍する渋谷悦さんにお話を聞いた。
あけびの蔓はひと手間が使いやすさを増す
渋谷さんが使っている素材はあけびの蔓。「素材は弘前から見える岩木山と八甲田山で採れたものだけを使っています」という。蔓は1年ほど乾燥させて使う。ただし、蔓には節があったり、太さもまちまちだったりするので、まずはそれを作品に使えるようにするところから作業を始めなくてはいけない。渋谷さんはさらに蔓を半分に割いて使うこともあるそうだ。そうすることで、軽量化することもできるし、ボテっとした野暮ったさがなくなるのだという。手にとってみるとその柔らかさにも驚いてしまう。
あけび蔓細工のバッグは柄も豊富
ショップを眺めると、さまざまな柄のバッグやかごがある。あじろ編みや、田んぼのうねのような模様を表現するうね編みなど、蔓細工といってもいろいろな表情のものが並んでいた。ショップを見学したあとに実際に編んでいるところを見せてもらった。ぐっぐっと力を入れて編むその姿は「編む」という言葉からはあまり想像できないものだった。それだけ時間も労力もかかる作品なのだ。
使い込むほどに味が出るあけび蔓細工
あけび蔓細工は使い込むほどに味がでてくるところが特徴だ。使い込むほどに、濃い飴色になっていく。それがまた優しさも連れてくる。大切に使えば数十年はもつという。その頃にはきっと自分色に染まったバッグになっていることだろう。