水の郷がうまい酒「春霞」を生む
栗林酒造店のある秋田県仙北郡は秋田のなかでも酒造りの盛んな場所。江戸時代、付近には20もの酒蔵があったそうだ。なかでも古くから酒どころとして発展していたのが美郷町六郷だ。その理由のひとつが水。六郷は名水百選にも選定された、水の町。奥羽山脈のふもとの扇状地にあるため、地下水が豊富に湧き出るのだ。一体では家庭でも地下水を組み上げて使っているほど。
栗林酒造店の銘酒「春霞」を生んでいるのもこの名水。栗の木がそばにあることから栗林(りつりん)の仕込み水と呼ばれている。
春霞が生まれる「一本蔵」
トンネルのように100メートル以上続く蔵。手前から、前の蔵、仕込み蔵、槽場(ふなば)と続き、最後は貯蔵用の場所となっている。一本蔵と呼ばれるそのトンネルから春霞は生まれる。また秋田醸造試験場が秋田の酒蔵と共同で行ったプロジェクトで分離、培養させた亀山酵母がさらに春霞の味を引き立たせる。この酵母は春霞の蔵から発見されたもので、亀山の名前は長年春霞蔵の杜氏を努めた亀山精司さんの名前から取られたものだ。平成23年に実用化され、翌24年から本格的に仕込みが開始されている。
地元の蔵人が作る酒米
春霞の特徴は、すっきりとした華やかな香り。そしてさわやかな酸味を含んだ穏やかなうまみだ。六郷の水のようにきれいな味で、食中酒としても人気がある。
春霞を生むもうひとつのキーワードが地元の酒米だ。栽培品種は、美郷錦、秋田酒こまちの二品種。特に、美郷錦は秋田生まれの酒米で、地元美郷町を中心に栽培しており、蔵で最も力を入れているお米である。蔵の最高峰、純米大吟醸もこの美郷錦で仕込んでいる。酒米の作り手は地元農家が中心で、米は冬になれば酒として仕込まれる。栗林酒造店でも美郷錦を使った春霞が人気商品のひとつ。さわやかな酸味とやわらかな甘味が特徴だ。
秋田の水、秋田の米、そして秋田の人が作り出す銘酒が春霞なのだ。