日本一小さな蔵だからできる酒造り「杉原酒造」/岐阜県大野町

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日本一小さな酒蔵「杉原酒造」

自他共に認める“日本一小さな酒蔵”が岐阜県揖斐郡にある。創業明治25年の杉原酒造だ。2021年度の生産量はわずか80石(こく)。一升瓶に換算するとわずか8,000本である。ここで造られた日本酒「射美(いび)」は、流通する絶対量が少ないこともあり、入手困難な幻の酒となっている。手がけるのは、代表であり杜氏でもある5代目の杉原慶樹さん。実は、つい15年前まで彼は酒米の存在も知らない全くの素人だった。

「なぜ、お前は実家が酒蔵なのに日本酒をつくらないんだ?」。当時、青年海外協力隊として海外で働いていた杉原さんに、現地の同僚がかけた言葉がずっと心の奥底に引っかかっていた。幼い頃から酒蔵の存続に苦労する両親の姿を観て、酒蔵を継ぐのは嫌だったが、いよいよ倒産の瀬戸際となり、日本の伝統産業を守ることを決意。ただし、普通の米と酒米の違いも知らないほど知識も無く、酒造りの経験も無かった。そして、当然失敗した。それでも売るしかないと、不退転の決意で東京や大阪に飛び込み営業をしたものの、どの酒屋にも相手にされなかった。

ただ、ある酒屋に「まだ美味しくないし売れないが、良い酒が出来たら必ず全部買ってやる。だから辞めるなんて言うな」と声をかけられたことが励みになった。どうせやるなら特別なものを造りたいと杉原さんは、原料から地元産にこだわった“真の地酒”を目指した。お米も地元に合ったものを作りたいと、米作りに協力してくれる人々を探しまわった。小さな酒蔵が自分たちだけの米を作るのは容易な事ではなかったが、杉原さんの酒造りの熱意を知った地元の有志が協力を申し出てくれた。岐阜の米作りの第一人者ともいわれる品種交配の匠と、栽培に力を貸してくれる米農家とで、地元の風土に合ったお米で造る酒造りにこだわり、酒米として最高峰の「山田錦」と地元の風土に合った『若水』をベースに交配・定着を何度も繰り返した。杉原さんが蔵に戻って6年後、ついに最初の「射美」が誕生した。酒米は「揖斐(いび)の誉(ほまれ)」と命名され、2021年に岐阜県の酒造好適米として認定された。開発開始から10年経っての事だった。

幻の酒はアップデートされていく

「射美」の特徴は、華やぐ香りと芳醇な甘み。そして、市場性に応じて進化し続けること。「揖斐の誉」の品種改良は現在進行形で行われ、その年の酒米の出来や気候条件、食の流行によって酒造りもアップデートされる。「何も知らなかったから固定概念が無く、良いと思ったことを素直に取り入れられたことが出来た。まさに皆で醸す日本酒です」と杉原さん。今後の目標は、小さな酒蔵のモデルケースになることだという。なぜなら、スモールビジネスならではのメリットも大きいからだ。例えば、製造量が少ないため営業や広告をする必要が無く、酒造りに集中できる。そして目の届く範囲で品質をコントロールできる。やらないことを決めることでやりたいことを実現する好例ができれば、他の小さな酒蔵の励みにもなるはず。固定概念が無いからこそできる。小さいからこそ挑戦できる。

世の中の流れに迎合しない道は険しく、生やさしいものではない。だが、諦めなければ報われることもある。「褒められると伸びるタイプ」と笑う杉原さんは、叱咤激励を受けた酒屋に酒を卸すようになり、「今年はもっと良くなった」と言われるためにも酒造りに精根をつぎ込む。

ACCESS

杉原酒造株式会社
岐阜県揖斐郡大野町下磯1
TEL 0585-35-2508
URL https://www.sugiharasake.jp/
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