日本に伝わる魚醤(ぎょしょう)
魚を原料にした調味料は東南アジア一帯で多く見られる。例えばタイのナンプラーもそう。ほかにベトナムのヌクマムなど、魚醤は多くの国で使用されていた。ちなみに古代ローマにもガルムという魚醤があったとされている。日本もその例外ではなく、古くは”醤(ひしお)”とよばれ、平安の延喜式にも記述が見られる。また、平城京、平安京などの市でも売られていたといわれている。魚醤はアミノ酸と魚肉に含まれる核酸を豊富に含むため、濃厚な旨味がある。
しょっつるはその魚醤のひとつ。正確にはわからないが、しょっつるの起源は江戸時代初期といわれている。大門助右衛門という人が自家用として作ったものが始まりとされる。正式に商品として販売したのは1895年のこと。佐藤佐七商店というところが販売したのが最初だ。当時は醤油が高級品で、毎日の食事に使えるものではなかったようで、煮物や汁物などの調味料として使用されていたといわれる。それゆえに、身近で手放せないものとなったのだ。
秋田名産の「しょっつる」を残したい
今回取材にうかがった諸井醸造は、もともと味噌、醤油の醸造をしていた蔵。現在でも味噌、醤油の醸造もしているが、秋田名産のしょっつるが秋田から消えかかっていた現実を見て、しょっつる造りを20年ほど前から始めたのだという。
まずひとつ、しょっつるを造る人がいなくなってきた。そしてふたつ目、しょっつるは本来、秋田の県魚であるハタハタで作るものが多かった。しかし、現在ではほかの魚でも作ることが多くなった。このふたつが、諸井さんの気に止まった。これはとりもなおさず秋田の”文化”として、ハタハタのしょっつるを残したいという思いだった。
鍋だけじゃないしょっつるの食
「しょっつるといえば鍋ですよね」と中田が言う。たしかにしょっつるというと鍋とすぐに想像してしまう。「たしかに鍋が多いんですよね」と諸井さんは話す。「でも」と言う。
「例えばイタリアにはアンチョビがありますよね。同じ魚醤なのに、アンチョビはパスタにも使われる。これはどういうことかと思ったんですね」
それで現在秋田が仕掛けているのがしょっつる焼きそば。ソース味でない。かといって塩味でもない。しょっつる独特の塩味のある焼きそばを作っているそうだ。ほかにおでんつゆなどにも使われるようになったという。しょっつるは熟成の度合いで味がだいぶ変わってくる。さまざまなものを中田も試飲させてもらったが、熟成度合いがませばまろやかになる。その味の差もさまざまな料理へ応用できる。伝統の文化を守り、それをさらに進めていく。諸井醸造の挑戦はこれからも続いていく。