幻の豚「金華豚」
しっとりとした脂の甘みからときに「霜降り豚」ともいわれる金華豚。もともとは中国が原産の豚で、中華高級食材の金華ハムの原料豚として有名な豚だ。その金華豚を育てている平田牧場に見学に行った。
1953年に山形県庄内地方で始まった平田牧場。1974年に「平牧三元豚」の開発を開始する。三元豚というのは三種類の品種をかけあわせた豚のことで、平牧三元豚は主にランドレース、デュロック、バークシャーの純粋種を交配して作り出したものだ。それに独自の飼料を与えて、肉のきめが細かく歯ごたえがいいのが平牧三元豚の特徴だ。プロの料理人からも評価が高く、日本有数のブランド豚のひとつとなっている。
金華豚の開発に着手したのは1988年。中国から金華豚を輸入したのが始まりだ。現在は純血種の「平牧純粋金華豚」と、長年培ってきた品種交配技術で肉質を損なうことなく生産効率を高めた「平牧金華豚」の2種類を育てている。「平牧純粋金華豚」は国内でも2ヶ所でしか育てられておらず、そのため出荷量はわずか。それが幻の豚といわれるゆえんだ。
試行錯誤で始めた無添加ウインナー
平牧純粋金華豚は、一般的な豚よりも身体がひと回り小さい。そのため食用部位も少なくなるため、幻が幻を呼んでいるような状態。それでも、肉の旨み、脂の旨み、歯ごたえ、すべてが最高級で、人気を呼んでいる。これまた幻が幻を呼んでいるのだ。
平田牧場では食肉加工も行っている。「今日ぜひ食べていただきたいと思っていたのがこのウインナーなんです」と製造部門の志田さんが出してくれたのは、無添加のウインナー。もともと「安心して食べられるウインナーがほしい」という消費者の声から作ろうと思ったものだという。それが約40年前のこと。現在ほど食の安全ということが言われていなかった時代だ。もちろん無添加のウインナーなどどこにもなかった。
「無添加だとおいしくないというイメージがあるかもしれない」と志田さんは言うが、一口食べてみると、そのおいしさにびっくり。「40年の集大成です」と志田さんはうれしそうに笑っていた。平田牧場では豚、精肉、加工まですべて行っている。志田さんは「TPPも含めて産業のモデルになれるようにやっていきたい」と話していた。
無添加でも美味しい豚肉
平田牧場は、山形県内だけでなく、東京をはじめとした全国に販売店、飲食店を持っている。もともと豚のおいしさをどうやって届けたらいいだろうかと考えて、それならばレストランを作って食事として出すのがいいと始めたそうだ。店頭販売で人気があるのはコロッケ。いくらでも食べられるあっさりとした肉の味が人気の秘密だという。
肉そのものも試食させていただいた。紹介した「平牧三元豚」も「平牧金華豚」もともに食べさせていただいた。三元豚の肉の弾力も魅力的だし、金華豚の芳醇な脂の旨さにも驚かされた。おいしいという表現だけでは伝わりきらないおいしさだった。
ただ社長の新田嘉七さんは「おいしさはもちろんだけれども、無添加ということももっと伝えていきたいというのがいまの気持ちです」と話してくれた。
実は中田がこれまでにレストランで平田牧場の豚肉・加工品を食べた時も、無添加ということは知らなかったという。無添加のものをそうだと気がつかずにおいしいと食べている。考えてみたらとても幸せな状況かもしれない。けれども、安全をきちんと認識して安心しておいしい料理が食べられたらなおのこといい。そのために平田牧場は安全にこだわり、それをもっと知ってもらいたいと活動をしている。