農業と地域を見つめて「農業・養鶏家 菅野芳秀」

農業と地域を見つめて
「農業・養鶏家 菅野芳秀」

土は命の源だということ

山形県長井市で農業と養鶏業を営む菅野芳秀さんは、循環型農業を行いながら地域づくりにも力を入れた活動を行っている。この日伺うと、あるデータを見せてくれた。アスパラガスやピーマンなど数種類の野菜を検査し、野菜に含まれるビタミンC、カルシウム、鉄分等の数値を測ったデータだ。1954年と2000年の数値を比較すると軒並み成分量が減っているのがわかる。
「野菜の見た目は、現在の方がきれいかもしれない。でも栄養素はこんなに減っているんです。野菜は土の反映体、土の力が落ちている」。そう菅野さんは話す。1960年代から始まった化学肥料の使用などによって土自体の力が落ち込んだことがその要因と考えられているのだ。
菅野さんの農業に対する考え方は“土”に起因する。
「砂地では作物は育たない、粘土質だけでも育ちません、どちらも鉱石が変化した物だからです。しかし土では作物が育つ。土というのは(有機物の)遺体の集合です。その土は、我々やこれから生まれる命のみなもとになる。土と私たちとの命の関係を考えて付き合って行く事が必要です」。
生産量を得るためだけの農業ではなく、土が作物に影響し、食べる人の体にも影響するということまでを考えた循環型農業を実践している。

環境、健康、普遍的な利益を残す

菅野さんは地域づくりにも力を入れる。そのきっかけをこう話してくれた。
「農業をしていて、田んぼから山々を眺めていると、先人たちが三代先の未来の為に木を植えていると気がついた。そうした先人たちの残した“地域のたすきわたし”、“楽しみの先送り”をあっちこっちの田畑や風景の中に発見できた」。
そして、より良い暮らしを次の世代、孫たちの世代に残す為に農業を続けること、地域づくりに活かしていこうと決めたという。
こうして立ち上げたのが「レインボープラン」だ。長井市の市街地に生ゴミを入れるコンポストを設置し、週に2度回収、堆肥センターで処理を行い、農村部の田畑の堆肥に利用して化学肥料を減らした作物を生産・販売する。市街地の約5000世帯のほとんどが生ゴミ回収に参加し、内容物の分別も非常に正確に行われているのだ。
レインボープランは単に生ゴミの再利用という側面だけでなく、堆肥を作る町の人、農作物を作る村の人、その両者が共に農業に関わるという意味を持っているという。レインボープランの事例は全国から注目されており、視察に訪れる地自体も多い。


人懐っこい鶏たち

鶏舎に案内していただくと元気いっぱいの鶏たちが出迎えてくれた。
「午前中は玉子を生む時間なので小屋にいることが多いが午後はずっと運動している。とても健康です」。
家畜を飼い、自ら育てた作物を飼料にし、また家畜の糞を堆肥に循環させる「有畜複合農業」に取り組むみたいと考えていた菅野さんは、子供が生まれた時にふと玉子が頭に浮かんだという。ちゃんとした玉子を食べさせてあげたいという思いから育て始めた鶏は5羽が100羽になり、1000羽になった。
現在飼育しているのは赤玉鶏「ボリスブラウン」、後藤孵卵場「もみじ」という種類。時には鶏肉を食べることもある。食肉用の鶏よりも時間をかけて育てるため肉質はかたいが、噛めば噛むほど旨味があり、鶏ガラはコクがありとても美味しいスープがとれると教えてくれた。
田んぼや畑の土には鶏たちの糞によって作った堆肥を使用し、農業で出てしまうくず米やくず野菜、雑草などがニワトリの餌となる仕組みは、ほとんど無駄がない。そして健康な鶏が生んだ美味しい玉子をいただくことができるのだ。
「普遍的な利益ってありますよね。環境を守るとか、健康なものを食べるとか。農業はもともとそのような世界に貢献していく力を持っています。」と菅野さんは語る。
信念を持ちながら活動を続ける菅野さんの元には、農業を志す若者も多く訪れるという。次の世代へのたすき渡しは、土や地域、人へ繋がっているのだ。

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農業・養鶏家 菅野芳秀
山形県長井市
URL http://samidare.jp/kakinotane/